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社会と共に変わる“公務員のキャリア観” ━━職員の学ぶ意欲に応える滋賀県庁の人材育成の取り組みとは

滋賀県庁では「職員(ヒト)こそが最大の経営資源」という認識のもと、職員の意欲と能力の向上とそれらが最大限発揮できる職場環境づくりに取り組まれてきました。特に人材育成においては、OJTを中心とし、自己啓発、職場外研修、人事制度と総合的に組み合わせた推進体制を構築しています。

さらに2024年7月から、職員のより主体的な学びの意欲に応えるため、オンライン動画学習サービス「Schoo for Business ビジネスプラン(以下、Schoo)」を導入。管理職向けの研修と希望者の自己研鑽にSchooを活用し、これまでに培ってきた集合型研修の体系と合わせて、職員の皆さんに学びの機会を提供しています。

なぜ今、滋賀県庁は職員の「学び」に力を入れているのでしょうか。
滋賀県をはじめ多くの自治体に当てはまる課題や、公務員の働き方における「学び」の重要性とは?

滋賀県庁で人材育成を担当する政策研修センターの廣部千英子さんと横山聡洋さんに、お話を聞きました。

*プロフィール(写真左から)
廣部 千英子さん/総務部管理監(人材育成担当)(兼)政策研修センター所長
1991年入庁(34年目)。福祉、学校事務、消費者行政、人権、生涯学習、観光等幅広い業務を経験し、現在は全職員向けの研修・人材育成を行う政策研修センターの統括を担う。
横山 聡洋さん/総務部人事課(兼)政策研修センター
2012年入庁(12年目)。環境や福祉に関する部署、市役所への出向などを経て、現在は人事課と政策研修センターを兼務。庁内のメンターやサポーター制度などの人材育成業務に従事するとともに、新規採用職員から幹部職員までの職階別研修、また新規研修の企画立案などを担当している。


複雑化する行政課題にチームの力で取り組む時代。学びはすべての職員に必須のテーマに

━━ 人材育成や組織開発に取り組む中で、「学び」が重要だと考える理由を教えてください。

廣部さん:社会の急速な変化によって、行政課題は年々多様化・複雑化しています。また過去の行政改革、近年の採用増加と定年延長の影響を受け、40代の中堅層が少なく、若手と50代以上が多いM字型の職員構成になっていることもあり、結果として経験の少ない若手職員が難しい業務を任される機会も増えています。

そのような状況で職員が業務を遂行するためには、学びによって個々の能力を高めていくことが必要です。特に、現代の若手職員は自律的に新しい知識やスキルを習得し成長したい方が多いので、彼らの学びの意欲に応えられるような学習機会を提供することが重要だと考えています。

また若手職員が力を発揮するためには、管理監督者による十分なサポートと適切なマネジメントが欠かせないことから、管理監督職のマネジメントスキル向上も重要です。職場の心理的安全性が重要視される現代では、行政組織においても一人ひとりの特性や経験を活かしてチーム全体の力を最大限に引き出すという、高度なマネジメントスキルが求められています。

学びの意欲調査では、職員の7割が「スキルアップに取り組んでいる/取り組みたい」と回答

━━ そのような状況で、職員の方は学びの必要性についてどのようにとらえているのでしょうか?

横山さん:昨年、職員全体に対して学びに関するアンケートを実施したところ、「現在スキルアップに取り組んでいる」もしくは「スキルアップに取り組みたい」と答えた職員が7割に及びました。私たちの予想より遥かに多くの職員が学びに対して意欲的であると分かり、その人たちにもっと機会を提供していく必要があると感じました。

━━ 多くの職員の方がスキルアップの必要性を感じているのは、なぜだと思いますか?

横山さん:やはり行政課題が多様化・複雑化していて、これまでのOJTや先輩からの指導だけでは知識やスキルが十分ではなくなってきていることが大きいと思います。そのため近年、従来の集合型研修においても新たなテーマを導入することが多く、例えば、社会の理解と共感を得て事業の課題解決につなげるファンドレイジング研修、行動経済学の観点を業務に活用するためのナッジ理論の研修など、普段の業務では得ることが難しい内容も、公務員の知識やスキルとして新たに求められていると感じます。

また今は、私のような最後の昭和世代がプレーヤーからマネジメントに変わる頃でもあります。時代の変化に伴って従来の指導方法や意思決定の仕方が通用しなくなる中で、部下や後輩職員との接し方に課題を感じている人が多いのではないでしょうか。

廣部さん:私自身も、この4月に研修センターに来てから多くの外部講師の話を聞き、若い世代の意識や考え方が、私たちの世代とは異なる部分があることを知りました。昭和は「自分で考えろ、背中を見て学べ」という時代でしたが、今はそれでは通用しません。今の若手職員たちはただ指示を忠実に実行するのではなく、目標に向かって納得感を持って仕事に取り組みたいという意志を明確に持っています。上司は、その指示が何のためにあり、どのような結果を目指しているのか丁寧に教えることで、部下の意欲を最大限引き出していくことが必要なのだと思います。

また、今の若手職員は、私たちの頃より早期に難しい仕事を任されることも増えています。彼らの悩みや課題をより深く理解し、適切に指導していくために、管理監督者には十分なマネジメントスキルやコーチングスキルが求められます。マネジメント層に向けた研修はこれまでも実施してきましたが、一定の職階以上になると研修機会が減ってしまうため、管理監督者向けアンケートにも「マネジメントやチームビルディングの研修をもっとしっかり受けたい」という声が多く、私たちはそのニーズに応えていかなければと感じています。

職場でのコミュニケーションという意味では、若手職員たちもまた難しさを感じているようです。特にこの数年で入庁した若手職員は、学生時代に他者との交流の機会をコロナ禍によって奪われてきたため、コミュニケーションそのものに悩む部分もあり、そういったことも学ぶことで解消したいのだと思います。

「幅広いテーマを」「自由な時間に」学べるように。職員の学習ニーズに応える施策として、動画学習サービスを初導入

━━ オンライン動画学習サービスを導入するのは初の試みだそうですが、現在のSchooの活用状況を教えてください。

横山さん: 管理監督者に向けては必須の研修として、「コミュニケーション」や「リーダーシップ」「マネジメント」といった研修パッケージの中から一定数以上の受講を義務付けています。多忙な管理監督者に学習機会を提供するには、自由な時間に学ぶことができる動画学習が適しているのではないかと期待しています。それ以外の職員に向けては、手挙げ式で希望者にSchooアカウントを付与しています。

━━ Schooの良いところは、どんな点ですか?

横山さん:「日本人は学ばない」と言われますが、仕事をしながら多忙な中で学びを継続するのが難しいのは、県職員も同じです。私が担当者として導入する以上は、私自身が本当に使い続けたいと思えるサービスを導入したいと思っていました。

検討の段階でSchooを視聴してみたところ、興味を引く授業タイトルが多く学びのきっかけになりやすいこと、資料の作り方やコミュニケーションの仕方など、行政の仕事にも活かせるビジネススキルの授業が豊富にあって継続しやすいと感じました。実際に導入した後は、毎日電車で授業を聴いています。

廣部さん:私も以前は通勤中にSNSを見ていたのですが、最近は外の景色を眺めながらSchooの授業を聴くようになりました。

効率化や仕事の進め方といったビジネススキルについては、民間から学ぶ部分も多いと思います。Schooの講師は比較的若い方が多いですし、みなさん現役の実務家だったり起業家だったりするので、公務員からするとそういう方の話を聞くだけでも良い刺激になりますね。

━━ 導入を主導された際、職員の皆さんにSchooを使ってもらうためにどのような工夫をしましたか?

横山さん:当初はどんな反応があるか全く未知数で、単に動画学習を導入したとアナウンスしても、多忙な職員に興味を持ってもらうことは難しいと考えていました。希望受講者を募る際に重要なポイントは「やる気がある人にいかに情報を届けるか」だと考えていましたが、私自身も広報の経験がほとんどなかったので、Schooでマーケティングの授業を見て参考にしました。

具体的には、職員を「Schooの情報が届きさえすれば受講する人」「内容次第で受講するかもしれない人」「全く受講しそうにない人」の3パターンに分け、その内の「内容次第で受講するかもしれない人」が最も人数が多いと仮定し、広報のメインターゲットに設定した上で、どういう情報を届けたら興味を持ってくれるかを考えました。「資料作成に困っている」「資格の勉強をしたいと思っている」など、その人たちが考えていそうなことを想像して、それに応える授業を紹介するチラシを作りました。

横山さんが作成した広報用チラシ

今回取り組みを進める上では、私の力だけでなく、組織に新しい試みを受け入れる土壌があったことと、廣部さんをはじめとする上司の方たちの前向きな姿勢に助けていただきました。周りの協力を得ながら自分のやりたいことを施策に反映できたため、やりがいや面白さを感じながら進めることができました。

受講希望者の「手挙げ」では、募集枠400名に対し500名以上の応募が!

━━ 手挙げでの受講者募集については好評だったとうかがっています。その背景には、職員の皆さんのどんな課題意識や期待があったと思いますか?

横山さん:受講者の応募については、初回は400名の募集枠に対して500名を超える応募があり、導入担当としては非常に嬉しい誤算でした。

自律的なキャリア形成が重要視される時代ですが、公務員のキャリアは自分自身で選べない部分もある上、「転職」と称されるほど異動先が多種多様です。それでも自分が今勉強していることや興味を持っている分野で知識やスキルを深めていけば目の前の仕事にも活きますし、その時々で得た知識、スキルや経験は他の所属でも活かせます。学びを重ねている職員ほど、その重要性を認識しているのだと思います。

廣部さん:「今の時代、就職する時に2〜3割の人は次の転職を視野に入れている」というような話も聞きます。やはりその場所で「自分がキャリアアップできている」という感触を得られないと、仕事が楽しくならないのでしょう。仕事の達成感に加えて、学ぶことで自分が日々成長していると実感したい職員も多いと思います。職員アンケートでも、多くの若い職員たちが学びへの意欲を強く持っていることが分かっています。

━━ 実際に研修や自己研鑽でShooを受講した方からは、どのような反響がありましたか?

横山さん:管理監督者研修を受講した職員から、前向きな感想がいくつか届いています。例えばハラスメント防止の授業について、「内容が非常に良く、多くの管理職にお勧めしたいと思いました。電車の中で視聴しています」というコメントがありました。もちろんハラスメント研修は実施していますが、一度の研修で完全に知識を吸収するのは困難です。Schooを使えば繰り返し復習できる点も便利ですね。

また公務員ならではの事情として、それまでのキャリアで全く関わりのなかった部署にいきなり異動することもあります。実際に、異動をきっかけにSchooで一から簿記の勉強を始めたある職員は、「特に『初心者でも安心-はじめての簿記3級(リニューアル)』という講座の先生がとても分かりやすかったので、全てのコースを学んでみようと思います」とコメントしています。自分の知識レベルや関心に応じて内容や講師を選べるところが好評のようです。

まだ希望受講者からの具体的な声は拾えていませんが、受講履歴を見ると、コミュニケーションを筆頭にマネジメント、ハラスメント、また資料作成やPCスキルなどのビジネススキルから、人によっては英語の授業を見ていたりするなど、自身の興味関心や課題に感じていることなどを踏まえて様々に学んでいるようです。「興味はあったけれど今まで学んでこなかった分野」を学ぶきっかけになっているのではないかと思います。これまでの研修も職員のニーズに沿うように内容を考えてきましたが、Schooなら幅広いテーマのコンテンツがあるので、そうした多様なニーズに応えることができるのではないかと期待しています。

「職員(ヒト)こそが最大の経営資源」全員の力でより良い県庁に

━━ 最後に、今後の人材育成や組織の学び合いについて、展望を教えてください。

横山さん:今回Schooを導入したことで、研修の選択肢が増えたのはすごく大きいことだと思っています。私自身も含めた一人ひとりのスキルアップが県庁全体の生産性向上に寄与しますので、きちんとした研修体系に基づく集合研修の実施を前提に、それを補完して相乗効果を発揮させていくものとして、Schooを活用していきたいです。

基本的にはそれぞれが自身の都合の良いタイミングで自由に受講する形になりますが、今後は「集合学習機能」を活用して職員同士の学び合いの場を設けたり、学んだことを共有し合えたりするような仕組みを導入したいと考えています。

廣部さん:私としては、職員の皆さんにはやりがいを持って幸せに働いてほしいと思っています。今後も災害などの突発的な事案や、新たな行政需要が出てくることも予測されます。今までと同じやり方、考え方では解決できない問題が出てくることもあるでしょう。このような先の読めないVUCAの時代には、職員一人ひとりが新しい知識やスキルを常に取り入れ、その上で職場の仲間と目標に向かって話し合い、助け合いながらイキイキと働けてこそ、県庁が組織として最大のパフォーマンスが発揮できると思います。

仕事の達成感を得るための知識やスキル、チームとしての力を発揮するマネジメント、ワーク・ライフバランス実現のための業務の効率化。滋賀県では、これらに必要な学びの機会を提供し、職員一人ひとりの能力向上を通じて県民サービスの向上を目指しています。

入庁後も職員が自分を高められるような、成長し続けられるような、そんな学びの応援をしていきたいですね。


■株式会社Schoo

MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:「あたたかい革命」が起こり続ける社会を残す

私たちが暮らすこの社会は、多くの人々が生んだ発明、努力、願いによってつくられました。ですが、少子高齢化という揺るぎない流れが、今の社会システムに留まることを許さず、たくさんの劇的な変化を私たちに要求しています。「誰かを想い、何かを変えるために頑張ること」。それが私たちの定義する「あたたかい革命」です。学びを通じた新しいつながりを編み、しがらみや壁を取り払って、社会課題を解く様々なイノベーションを生み出すこと。私たちの子供やその先の世代に「未来はきっと良くなる」と信じ続けられる社会を残すことを目指しています。

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