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社会人教育のスクーが「地方」へ本気になる理由

創業から「世の中から卒業をなくす」を掲げ、社会人の学びを追求してきたスクーは2024年、ひとつの節目を迎えます。

世界一のスピードで少子高齢化が進む日本。これまで手がけてきた社会人教育事業ともつながりの深い「地方創生」で、スクーは新たなフェーズに踏み出します。

次のステージに進む変化のタイミングに、社会人教育から地方創生へと連なる次の10年の展望を代表の森健志郎に聞きました。


地方創生、次のフェーズのはじまり

「人口が減り続けている地方の、社員数人の会社や小さな組織で働いているような本当の意味で学びを必要としている人たちにこそ、リスキリングを届ける必要がある。

『世の中から卒業をなくす』という使命を掲げている以上、僕らがそれをやらなくてはいけない、そう思っています」

そう話す森は、コロナ明けの2023年、2024年とたびたび東京を離れ、通算で約3カ月程度にわたり九州地方に滞在してきた。その期間は時に1カ月以上にも及んでいる。

スクーは海外や地方在住のメンバーも複数在籍し、リモートで仕事ができる環境は整っている。とはいえ、代表森のここまでの頻繁な長期滞在は異例のことだった。

その背景にはスクーが2014年の創業初期から手がけてきた「地方創生」の基盤を、今こそ九州に築きたいという森の強い思いがある。

「これからの時代により求められるのは、一般的なSaaSのような共通の価値を広く届ける問題解決ではない。特定領域に深く入り込むことで解き明かせるような課題にこそ、立ち向かっていくことが求められます。そうした課題が多く取り残されていて、かつ日本の未来を左右するポテンシャルを秘めているのが地方です」

コロナを経てデジタル化と人手不足が進む中、日本でも政府が重点施策に掲げるなど、リスキリングは注目を集めた。

企業としてはありがたいことにスクーの導入会社も増え続けている。しかしながらこうした「リスキリング」の導入は、福利厚生の充実した人材投資余力のある「都心の企業から」になりがちなのも事実だ。

「広くあまねくに向けた都市部目線で開発されたSaaSだけでは、学びが本当に必要な人たちに届けられているとは正直言い難い」

だったら「東京のスタートアップ企業」という立場にとどまらず、自ら地方にも軸足を置いて、その土地の人たちとつながり、腰を据えて課題を探し、向き合うべきだ。

そうした森の考えは、2023年10月の九州サテライトオフィス設立に続き、8月に発表した鹿児島県日置市とのリスキリングモデル構築を目指す戦略提携にもあらわれている。

スクーにとって九州はたしかに縁のある地域。2014年の福岡市との提携、2021年鹿児島県奄美大島5市町村との包括的パートナーシップ協定など、つながりを地道に積み上げてきた。

「九州は本州と陸続きになっていない『ひとつの島』。人口やGDPの観点で見ると、日本を10分の1スケールで再現したような場所であり、様々なことにスピード感を持って取り組む上で最適です」

九州を拠点にする理由を、かつてのインタビューで森自身がこう語っている。

ではなぜ、新たなリスキリングモデル構築を最初に実証していく自治体が鹿児島県日置市だったのか。

日置市モデルとは何か

「九州に本格的に拠点を置きますと宣言してから、いろんな人にキーパーソンを紹介してほしいとお願いをしてきました。もともと九州にゆかりのある知人の起業家に紹介してもらったご縁がつながり、地元の企業経営者やNPOで活動されている、非常にパワフルな方たちに出会いました。そうするうちに、日置市長に会ってみませんか?とお話をいただいて。

そんな地元の人たちとの泥臭い"紹介リレー”の中で出会ったのが、日置市長の永山由高さんです」

地元の企業経営者の紹介で、初めて永山市長を日置市役所に訪ねたのは、2024年2月のことだ。地元の経営者、永山市長らと市役所で定食弁当の昼食をとりながら、森は「地域の全ての人にリスキリングを届ける仕組みを作りたい」と熱弁した。

「ただ企業が商品を提供する形ではなく、地元の自治体や企業と連携して、持続可能な新しい地域のリスキリングモデルを作りたい。それを一緒にできるパートナーを探している。学びによって地域や企業や人は変わるんだということを証明したい、そういう事例を作りたいんだと話しました。

永山市長からは、『まさに同じような課題感を持って生涯学習やリスキリングをやる必要があるとずっと思ってきた』と言っていただいて。そこから話が進み、次にお会いするときには、具体的な提案を持って行きました」

永山市長も、市長をつないでもらった地元の経営者も40代前半で、37歳の森とは年代も近い。それぞれ、東京や海外で働いてからUターンして地元に拠点を移した人たちで、都心と地域の双方の魅力や課題に直面してきた点でも共通していた。

「日置市もまた、社会人教育に注目し、地域ならではの学びの場について検討をはじめていた。だったら一緒にやろうと生まれたのが、日置市モデルです」

日置市と地元企業、そしてスクーの連携によって構築するリスキリングモデルは、行政や企業がそれぞれ従業員に投じている「研修費」「福利厚生費」を持ち寄り、質の高い教育プログラムを日置市に住む人と働く人すべてに提供していく。

さらに、地元を離れて働く出身者や、日置市の周辺地域も巻き込んでいくことで、より持続可能なリスキリングの基盤を構築するモデルだ。

地元企業が自社の社員以外にもリスキリングを提供するモデルを資金面から支えるメリットについて、森はこう説明する。

「地方で仕事のデジタル化を進めるのに、自社や自組織だけでDXが成立するわけではありません。取引先にもデジタルツールを使ってもらう必要があります。たとえば片方の企業だけオンライン会議ができたとしても、もう片方が対応できなければ結局は対面の会議にならざるを得ません。

地元企業や自治体にとっては、自社や自組織の社員のためにやる研修を地域の他の人たちにも解放するわけですが、オンラインを軸に研修を組み立てれば人数が増えることでコストが大きく増えることもない。

『地域まるごとDX』が実現して自社の事業をより加速させたり、地域全体の人手不足が緩和され経済活性することで副次的な利益を得たり。地元企業が地域全体の学びに資金を提供することには大きなメリットがあります」

この「日置市モデル」が確立できれば、他の地域や自治体に展開していくことも期待できる。

「まずは日置市からスタートしますが、最終的には北海道から沖縄まで、適切な地域単位でくくられたリスキリングモデルの横展開ができるといいなと思っています」

それぞれの地域の自治体、地元企業と連携しつつ、その地域にリスキリングモデルの基盤をつくる。その基盤をベースに、地域の課題に「バーティカル(垂直)に」に向き合っていく企業になる。それが、森の描いている絵だ。

ハイパーローカルとスクーのつながり

地域にフォーカスした森の構想が、はっきりした輪郭を持つようになったのは、2023年6月に訪れたデンマークという。

「10年前から主力事業として社会人教育のSaaSをやってきました。実感するのは、SaaSのような広く共通化された課題を解決しようとするホリゾンタルなビジネスは、労務管理やタレントマネジメントなど、すでにいろんなものが出尽くしている。それなりの大きさの市場については、どの領域を選んでも競争を避けられなくなっています。

今の立ち位置から新しいSaaSを作り続けるコンパウンド(混合型)モデルよりも、僕たちだからこそ掘り進められるポイントをみつけて、そこにある難解な問いに向き合う。そのほうがむしろ、本質的な社会課題解決と、独自の競争優位性にあふれたビジネスに行きつくのではないかと考えるようになりました。

その時に、業界というよりも『エリア』『地域』という軸が一番、拡張性、可能性があるのではと。そんな中、出張先のデンマークで、周囲に勧められて訪れたのが『クリスチャニア』でした」

クリスチャニアは、50年以上にわたり継続しているデンマーク政府公認の自主管理コミュニティーで、ヒッピーやアーティストが集まるエリア。独自のルールで自治運営する区域として知られる。毎年、50万人の観光客が訪れている。

「そこに住む人たちに教えてもらったキーワードが『ハイパーローカル』です。彼らがいうハイパーローカルとは、ある特定の地域で、共通の価値観を持つ人たちが一つのコミュニティに集まって、ほどよい距離感をつくりつつ、その地域やコミュニティを本当に良くするためにどうしたらいいのかを追求すること。社会的地位や職業に囚われず、共に新しい生き方をその地域でつくっていくあり方でした。

クリスチャニアにあった『日本にはない価値基準の生き方』。これを昇華させて『少子高齢社会の希望になりうるもの』をつくることが、スクーだからこそやれることなんじゃないかと」

デンマークの自治区域と社会人教育事業のスクーは、一見遠いように見えて、共通しているのが「共同体」や「コミュニティ」の追求が核になっていることだ。

「もともとスクーというサービスも、教育というよりは、コミュニティビジネスをやろうと思って始めました。2011年当時、ニコニコ動画(2006年にスタートした動画配信サービスの日本における草分けの一つ。独自のコメント機能で視聴者同士が交流できる点が特徴だった)すごいな、と感じていました。だったら生真面目なニコニコ動画作ってやろうという思いもあったんです。

全ての大人が学校を卒業したら『終わり』ではなく、スクーという終わらない学校に入学して、学生みたいな体験が一生できたらおもしろいし、もっと友達ができるかなと。そういうコミュニティ的な思想がベースにありました」

急激な人口減少社会で、廃れていく一方になりかねない地域の共同体を、「リスキリング」「学び」や「学校」で再構築することは、森にとっては、創業時から一貫した思想の流れの中にある。 

スクーらしさの拡張

2024年10月で14期を迎えるスクーの「現在地」について、森は「夜明け前」と表現する。

2011年の創業から13年を経て、DXやリスキリングの追い風も受けつつ、社会人教育事業はユーザー112万人、社会人教育事業は法人4000社、地方自治体は51自治体へと利用者を増やし「卒業がなくなった人」を増やし続けてきた。

次の10年は、成長を続ける社会人教育事業を起点に、ハイパーローカルという「ヒント」をベースにした地方創生の取り組みを、事業として自律させる。そうして少子高齢社会の問題解決企業へと、さらなる歩を進めていくことになる。

「日置市モデル以外にも、いくつかの自治体との提携を予定しています。そして地域をテーマにした新しい事業も準備中です。近いうちにβ版の提供を目指して開発を進めています。

スクーは社会人教育事業で基盤を築きつつも、ここからは社会人教育にとどまらない領域に踏み出していくフェーズ。事業もカルチャーもスクーらしさを拡張していく必要があります。

僕の世代が最終到達点ではない。次の世代が主役になっていく中で、スクーらしさが拡張し、変化を続けるのも自然なこと」

今、日本の人口推移グラフは2050年代に向けて急激な下り坂を描いている。

頻繁に九州に足を運ぶようになって、若者や現役世代が流出していった地方の町や集落が寂れていくのを、森自身目の当たりにした。

「今生きている僕たちは、逃げ切れてしまうかもしれません。でも、それでいいのか。僕たちの子どもの世代にあきらめるしかない社会を残していいのか」

ずっと「起業家というより革命家でありたい、世の中の仕組みを変革したい」と進んできた森の視座は、スクーの13年の歩みの中で、次世代に渡す未来に向けられている。


■株式会社Schoo

MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する


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