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今、大学に求められる改革とは?教育未来創造会議の第一次提言の要点まとめ

地方大学と企業の連携や理工系女子学生の育成強化など、大学にまつわる新しい動きについて、ニュース等で見かける機会が増えてきました。

今後も各大学でこうした新しい取り組みは進んでいくと思われますが、日本全体の大きな流れを理解するために、5月10日に政府から発表された「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」を読み解いてみたいと思います。


教育未来創造会議では何が議論されているのか?

教育未来創造会議とは

教育未来創造会議とは、大学等の高等教育機関と社会の関係の多様化を前提に、社会人の学び直しやデジタル時代における人材育成策の検討を目的として、2021年12月に内閣の下に設置された教育政策に関する会議です。

文部科学省だけでなく経済産業省、厚生労働省を始めとした各省から大臣が参加し、大学学長や企業の経営者など産官学にわたる広いメンバーで構成されています。

大きな議論テーマは3つ。

  1. 大学の機能強化や改革の方向性

  2.  奨学金などの学習支援の充実化

  3.  社会人の学び直し促進の環境整備

「社会において大学が担うべき役割」が議論の中心にあります。

これまでに3回の全体会議、4回のワーキンググループが催され、5月10日に途中報告として第一次提言が発表されました。今夏を目処に、提言内容の行動計画がまとめられる予定です。

第一次提言の概要

例えば、1つ目の議論テーマの「大学改革の方向性」。第一次提言では「未来を支える人材を育む大学等の機能強化」として7項目にまとめられ、それぞれ具体策とともに定義されました。②学習支援、③学び直し促進についても同様にまとめられています。

大学をとりまく背景や将来の方向性を知るために、第一次提言に書かれている内容を、課題解決のフレームワークである「As is / To be」(現在の状態 / あるべき状態)で整理していきます。

【As is】避けられない人口減少の中、鍵となる人材育成には課題が山積

第Ⅰ章「背景」には、人材育成を取り巻く現状と課題が書かれています。

大前提として少子高齢化による人口減少があり、世界のGDP各国比での日本の存在感の低下が予測されています。また、過去30年の実質賃金の伸び悩みや低い労働生産性(OECD38ヶ国中28位)が指摘されています。18歳人口の減少は大学等の高等教育機関への入学者減少を意味し、その規模縮小は避けて通れません。

そうした中、人材育成を取り巻く課題として、デジタル人材やグリーン人材の不足が喫緊の課題となっています。日本のデジタル競争力は28位と先進諸国の中では低く、先端IT人材だけでなく、全ての労働人口がデジタルリテラシーを身につけることが期待されています。

大学等の高等教育における課題として、高校段階での理系離れが激しく(理系選択は約2割)、その結果として理工系大学への入学者もかなり低い状況(OECD平均27%、日本17%)です。

特に課題なのは、女子の理系への進路選択の可能性が狭められている状況です。男女による理数リテラシーの差はほとんど見られないにも関わらず、社会全体の偏見によって、女性の理工系大学進学はわずか7%となっています。

他にも、諸外国と比べて、修士・博士号の取得者が少ない現状、企業による人材投資の低調、社会人の大学・大学院入学割合が低いことなどが課題として指摘されています。

【To be】日本が目指す在りたい社会像と人材像

続いて、第Ⅱ章「基本的考え方」には在りたい社会像が示され、その未来を支える人材像が定義されています。

大前提として、低迷する日本経済の再興が最重要課題

まず前提として、「日本の社会と個人の未来は教育にあり、教育・人材育成といった人への投資は成長への源泉である」と明言されています。2021年12月の会議発足当初から、

人への投資を通じた「成長と分配の好循環」を教育・人材育成においても実現し、「新しい資本主義」の実現に資する。

と、会議の趣旨が掲げられていますが、これは岸田内閣の主要政策である「成長と分配の好循環による新しい資本主義」と一致しています。低迷する日本経済の再興こそが重要課題であり、その実現を支えるための教育・人材育成であるという位置付けです。

教育未来創造会議は経済産業省を始めとした他省庁や企業経営者が構成メンバーに名を連ねており、前身の会議体である「教育再生実行会議」が文部科学省と民間の教育関係者で構成されていたこととは大きな対比です。

「在りたい社会像」の実現を支えるための教育・人材育成

これからの日本が目指す「在りたい社会像」として、個人と社会のウェルビーイング、社会的分断の改善、社会課題・SDGsへの対応、生産性向上と経済活性化、全世代学習社会の実現という5つのテーマを示しています。

そうした未来を支える人材像として、

好きなことを追究して高い専門性や技術力を身に付け、自分自身で課題を設定して、考えを深く掘り下げ、多様な人とコミュニケーションをとりながら、新たな価値やビジョンを創造し、社会課題の解決を図っていく人材

と定義しています。

人材育成の最重要ポイントは大学の機能強化

現在の状態(As is)とあるべき状態(To be)のギャップを課題として認識し、人への投資(教育・人材育成)によって課題解決を目指す——それが教育未来創造会議の役割です。

社会課題を成長のエンジンへと押し上げていくためには、科学技術・イノベーションの力は必要不可欠であり、その際、最大のポイントとなるのは人材である。

この認識のもと、教育未来創造会議では、目指すべき人材育成のための具体的方策について3つの大きなテーマについて議論されてきました。

  1. 未来を支える人材を育む大学等の機能強化

  2. 新たな時代に対応する学びの支援の充実

  3. 学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備

中でも、1番目の「大学等の機能強化」は最重要ポイントとなっています。大学等の高等教育機関は、未来を支える人材育成の中核を担う存在という位置付けです。そして大学自体の機能強化だけでなく、進学を後押しする支援策の充実や、社会人の学び直しの場としての環境整備が重要となります。

大学は社会に出る1つ手前の学習段階を担う中核的存在です。中央教育審議会大学分科会が2020年8月に公表した「教学マネジメント指針」では、「学修者本位の教育」への転換が掲げられました。

学生は社会に出て活躍するための学びを求めており、社会は学生に職業人生に役立つ学びを求めています。大学には「出口の質保証」の確立が求められ、ディプロマ・ポリシーを定め、厳格な卒業認定を行わなければなりません。

一方、大学進学には多額の費用がかかります。家庭の経済格差が学習機会格差を広げ、その後の生涯賃金格差を広げてしまっていることから、既存の奨学金以外の多種多様な支援策が求められています。

また、変化の激しいこれからの時代には、仕事と学びを循環させていくことが個人のキャリア形成にとっても社会の豊かな発展にとっても必要となります。誰もがいつからでも必要に応じて学びに戻ることができれば、失敗を許容できる挑戦ムードのある社会になっていきます。

大学に期待される「日本の未来を支える」という役割の重み

第一次提言では、「1. 未来を支える人材を育む大学等の機能強化」について7項目34施策が具体的方策として整理されました。産学官連携の強化、文理横断教育の推進、女性の理工農学系分野の活躍推進などが議論されています。

これらは突如現れた新しいテーマではなく、大学改革を巡る議題として以前から各所で議論されてきたものです。

しかし、突然のコロナ禍によって急加速したデジタル化やDXの波は、産業構造の変化とともに格差を拡大し、多くの社会課題を顕在化させました。

経済成長、社会の発展、個人のウェルビーイングの実現において、デジタル人材(≒理系人材)の不足や社会全体のデジタルリテラシーの普及(≒文理横断)の遅れは喫緊の課題と認識されています。そうした未来を支える人材育成の中核機関として、大学の担うべき役割が大きく変わり、社会に開いた存在(≒産学官連携)となることが期待されます。

冒頭で紹介した大学にまつわる新しい取り組みは、教育未来創造会議の議論を背景にし、大学の機能強化の方向性を示す重要な事例と考えられます。こうした事例がベストプラクティスとして各地域に広く展開されていくと、大学を中心とした地域経済や地域社会の新興につながり、誰もがいつからでも学び直し、再挑戦していける社会に変わっていけるのだと思います。

教育未来創造会議では2022年夏を目処に、実行計画や施策の工程表の作成が予定されていますので、このnoteでも引き続き議論の内容を追っていきたいと思います。


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