リスキリング界に期待の星?アプレンティスシップとは | Schooレポート vol.2
Schoo エバンジェリスト 滝川麻衣子
アプレンティスシップって?
人手不足やデジタル化の加速に伴い、「社会人のリスキリング」「おとなの学び直し」は、この数年で人材界隈の旬のテーマになりました。みなさんの中にも、ニュースを見て新しく何かを学び始めたという方も多いのではないでしょうか。
一方で、「働きながら一生懸命デジタルスキルを学んだけれど、実績がなく、異動や転職につながりにくい…」そんなお悩みの声も多く聞かれます。
ここに来て、リスキリングは「実務やキャリアにどう活かしているか」が次の課題になっています。と言うのも、もともとリスキリングは、「知識の幅が広がった」で終わらせず、新しい職務や役割に活かされることまでがセットだからです。
そんな中、静かに注目を集めているのが「アプレンティスシップ」。もともとはイギリスで若年層の就労支援で始まった仕組みで直訳すると「徒弟制度」「見習い制度」です。耳にされたことはあるでしょうか。
これが、リスキリング文脈でも「学びから実践へ」のシフトに一役買うことを期待されています。今回は、アプレンティスシップがひらく可能性について、みていきましょう。
日本でも盛り上がるか?
2024年がスタートしたばかりの今年1月、東京国際フォーラムで「アプレンティスシップフォーラム」が開催されました。アプレンティスシップをどうやって「超人手不足社会で活用できるか」をテーマに、高校生を対象にキャリア教育を行う一般社団法人アスバシと一般社団法人Foraの共同開催。主催者の取り組み分野からも、主眼は「これから社会に出る人」に置かれています。
ただし、「学ぶ」と「働く」の重なりを追及することや「人手不足社会」への対策として取り上げられていることからも、社会人のリスキリングとの相関性は非常に高いです。海外のリスキリング成功事例を調べていると、必ずアプレンティスシップに行き当たるくらいです。
年明けのフォーラムでは「日本でも、今こそアプレンティスシップを盛り上げようという動きが出てきているな」と感じました。
そもそもアプレンティスシップとは?
そのアプレンティスシップ自体は1960年代にイギリスで始まった公的制度で、目新しいものではありません。
学校やオンライン学習ではなく、実際の職場で、就きたい職業に関するスキル習得をしつつ、賃金も得られるのが特徴です。新卒重視の日本と違い、企業がより即戦力を求める雇用市場で、若者の就業支援として活用されています。特にコロナ禍で、イギリスでは若者の就業率がグッと下がったことから、政府が注力した経緯もあるようです。
イギリス政府の公式サイトApprenticeshipsをみてみると、デザインも黒をベースにビビッドで、まるでミュージックライブやテックイベントのサイトのよう。より敷居を下げて若者を呼び込もうとする姿勢を感じさせます。
アメリカでは2008年から2021年の間に、アプレンティスシップを活用する人の数は80%以上も増加し、59万人以上の活動中の登録者がいるとのデータがあります。政府の公式サイトをみてみると、こちらは若者に特化というよりも、医療職や技術職など多岐にわたって「多様な人が現場で必要とされるスキルを学ベて、長期の仕事を得られること」に軸足が置かれているようです。
ZOCALO PUBLIC SQUAREIによると、イギリスやオーストラリアは、アメリカと比較して人口当たりのアプレンティスシップ参加者が8倍に相当するほど活発です。「見習い」として専門職の職業訓練の歴史の長いドイツでは、デュアルシステムが公的なアプレンティスシップとして機能しているようです。
いずれにしても、学ぶことと実務トレーニングが両輪となって、次のキャリアへ走り出せるところに特徴があります。
リスキリングとの相性は?
では、すでに社会に出て働いている人とアプレンティスシップの相性はどうでしょうか?
冒頭で話した通り、リスキリングは「学んだことによって新たな仕事やポジションに就く」ところまでが「リスキリング」です。
しかしながら、現状はどうでしょうか。せっかくDXや生成AI、ウェブデザインなどのスキルを学んでも「今のポジションや職場では活かせない」状態に陥り、モチベーションが低下したり転職してしまったりするケース。「実務で使うことがない」ため、資格取得が目的になってしまうケースは、珍しくありません。
こちらは20-30代を対象にしたUniposのリスキリング実態調査ですが、8割以上の人がリスキリングのメリットを感じている一方で、目的は「昇給のため」と答えた人が6割。「在籍企業での新たな職種・領域へのチャレンジ(部署変更)」は最下位の22.7%、「転職」は30%にとどまっています。
多くの人にとって、現在の仕事の延長線上にリスキリングは存在しているようです。
一方、アプレンティスシップのような「働くと学ぶ」が、制度として一体化している仕組みは、ある分野に関するリスキリングが「その分野の実務」に直結しています。なので、「学習はしたものの実践の経験がない」という、新たなポジションへの異動や転職では弱みになりそうなポイントを、克服することができるのです。
企業内で実装される兆し
海外の名だたる企業は、すでにアプレンティスシップを続々導入しています。実務経験がなくても、ポテンシャルのある人材にはアプレンティスシップを提供して採用する、という姿勢が明確です。また、地元企業と連携して技術的失業に陥りそうな人材に機会を提供するなど、地域貢献に繋げているケースも印象的です。
例えばアクセンチュアは、データアナリストなどデジタル人材の育成を目的に独自のアプレンティスシッププログラムを2016年に創設。シカゴで、マクドナルド、JPモルガン・チェース、ウォルグリーンなどの地元企業から訓練生を受け入れ、デジタル人材にリスキリングさせています。
Googleもアプレンティスシップに積極的で、ソフトウェアエンジニア、マーケティングセールス人材の育成プログラム(1-2年程度)を各国で実施。Googleの採用ポジションとリンクしているのが特徴です。
他にもマイクロソフトやLinkedinが、自社のデジタルプログラムとレベル認定を連携させるなど、非常に充実したプログラムが提供されています。
日本のデジタル人材不足は起爆剤?
日本はどうでしょうか。ベネッセが地元企業への職業紹介を前提とした「雇用予定型リカレント事業」を奈良県で開始するなど、日本版アプレンティスシップもまた、独自のかたちを取りつつ増えていきそうです。
2010年代からグローバル人材をアプレンティスシップで育成する制度を作ってきた企業もありますが、一般化する起爆剤になりそうなのが「デジタル人材不足」です。
個人は「デジタルスキルを学んだけれど実績がなく、異動や転職につながりにくい」
組織は「デジタル人材の即戦力を採用したいが、採用競争が激化しており、人件費が高騰」
散見されるこうしたケースを、アプレンティスシップは一気に解決する可能性があるからです。
デジタル人材の争奪戦は年々、激しさを増し「いくら払えるか」の報酬競争をおびています。だったらアプレンティスシップのように実務で自社人材をリスキリングする選択肢は、有効になりそうです。実際、前述のGoogleやアクセンチュアなど海外事例はそれに相当していますね。
また、もともと副業や会社の枠を超えた取り組みに抵抗の強かった日系大手に起きている変化もまた、追い風になる期待があります。
日経新聞が、キリンホールディングスとパーソルキャリアの相互副業について報じています。記事によると、両社は副業案件を切り出して、それぞれの会社で希望者を募り、相互に副業人材の受け入れ・送り込みを行っています。「越境」を通じた人材の成長を期待しているとのことですが、こうした「仕事の現場」でのスキルアップや育成は、例えば非エンジニアにとってのデジタル分野などであれば、アプレンティスシップに相当する仕組みになり得ます。
デジタル人材不足や、従来の雇用慣行を超えた働き方の変化の波が訪れている今。学ぶと働くをつなぐアプレンティスシップや関連の仕組みが、日本社会に広がるのも時間の問題と言えそうです。
■株式会社Schoo
MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する