パラレルキャリア実現の鍵は「越境学習」。いつものコミュニティの外に一歩踏み出す勇気を。【Schoo本園先生インタビュー】
「Schoo」でグラレコ基礎やグラレコによるキャリアコーチングの授業を担当されている本園大介先生。
講師としての顔の他にも、ファシリテーター、プレゼンテーター、漫画家など、様々な顔を持ち、現在はグラレコのポテンシャルを活かしたキャリアコーチングや、副業・パラレルキャリアといった新しい働き方を広める活動をメインにしておられます。
そんな本園先生に、学びに目覚めたきっかけや、学びを通したキャリアの切り拓き方のコツを聞きました。
社員登用試験にまさかの不合格。会社に依存しないための「学び」に目覚める。
私がグラレコを始めとする学びに目覚めたきっかけは、今の会社の社員登用試験に一度落ちたことです。これは私の人生における大きな転機でした。
数年前、以前勤めていた会社が吸収合併されたり、それによって私が転籍になったりしたことで、色々な会社を渡り歩いていた時期がありました。その後、今勤めている会社に社員として雇うと声をかけてもらったのですが、入社してみると2年間も契約社員のままだった上に、やっと受験できた社員登用試験で不合格になってしまったんです。それまでの私は会社が大好きな人間だったのですが、それがきっかけで価値観がガラッと変わりました。
会社は自分のキャリアや人生を保証してはくれない。いざという時に自分を助けてくれるとも限らない。そもそも先行き不透明な時代に、会社自体がいつ無くなってもおかしくはない。ならば、会社に依存せず生きていけるようにスキルを身につけなければ。そう思ったんです。
私はエンジニア畑の出身なので、IT系の勉強会やLT大会を中心に、プレゼンの勉強会や、アイディアソン・ハッカソンにも参加していました。また、街づくりや地方創生にも関心があったので、そういったテーマの勉強会にも顔を出していました。
LT大会で発表する機会が増えたことでプレゼンを勉強するようになり、そこから派生してグラフィックファシリテーションを学び始めました。当時グラフィックファシリテーションとグラフィックレコーディング(グラレコ)は同列に語られていて、それでグラレコを知った気がします。
私が最初にグラレコの凄さを知ったきっかけは、ある勉強会でチームMTGの最中に、意見を書いた付箋に挿絵を描いてみたことでした。イラストで具体化すると面白いようにチームの意見がまとまり、メンバーからも「すごくわかりやすい!」という反応をもらったんです。それから本格的にグラレコを学び始めたのは、実は40歳を超えてからです。そう思うと、何を始めるにも遅すぎるなんてことはないですね。
学びの積み重ねで実現した「会社員」以外の生き方。教える側に立って知った、自分の使命。
グラレコを本格的に学ぶうちに、今度は自分が講師としてグラレコを教えるようになりました。他にもイベントやセミナーでグラレコをお願いされたり、ファシリテーターやプレゼンテーター、漫画家など、これまで学んできたことの積み重ねによってパラレルキャリアが実現し、人生がすごく充実していきました。
その充実感をもっと多くの人に感じて欲しいという思いから、副業・パラレルキャリアといった新しい働き方を広めることが次の目標の一つになりました。今は中小企業基盤整備機構で「人材支援アドバイザー」という役目をいただいており、新しい働き方についてお伝えする活動をしています。
様々な活動をする中で最も幸せを感じるのは、やはり生徒さんの「わかった!」「できた!」といった成長の瞬間に立ち会えた時です。
グラレコの「描く」という行為は、自分の心の奥にある願いや望み、強みなどに気づくきっかけを与えてくれます。これまでも、生徒さんがグラレコによるキャリアコーチングをきっかけに自分の可能性に気付き、涙を流して喜ぶのを何度も見てきました。以前、手話通訳の授業をグラレコで行った際にも、授業を受けた80歳のおじいさんが、授業の最後に「こんなに自分ができるなんて思わなかった!心の底から笑ったのは何十年ぶりかな?」とおっしゃったんです。こんな瞬間に立ち会えた時、私は魂が震えて、「ああ、私がやるべきことはこれなんだな」と感じます。
Schooでグラレコの授業をしている時も、こんな風に生徒さんが「一歩」を踏み出すきっかけになれたら、その背中を押せたらいいなと思っています。最初の一歩って、誰にとってもやっぱり重たいものですよね。だけどその一歩を歩むだけで人生は大きく変わり得ます。その生徒さんが5年後、10年後に成長した姿を見ることが何よりの楽しみですし、その人が持っている可能性を確信しているので、教えるという行為が楽しくてしかたがないです。
次のステップは「教え手」を増やすこと。企業にグラレコによる「可視化」の文化を広げたい。
もう一つ、私がSchooなどでグラレコを教えている理由でもありますが、「可視化」する文化を広めることで、企業などで有益な議論を先導できる人を増やしたいという目標もあります。
例えば近年、社員のミッション・ビジョンの理解促進を重視する企業が増えていますが、実際にはどれ程の社員が正しく理解できているでしょうか。社長や上司はミッション・ビジョンによって進むべき方向を提示しているつもりでも、社員には曖昧にしか伝わっておらず、見当違いの方向に進もうとしたりする。結果として、ばらばらの方向に綱引きをしているかのようになってしまい、会社という組織が全然動かない。そんな悲劇がいたるところで起きているように思うんです。
私自身、経営層に近い部署と現場の部署の両方で仕事をする中で、経営層が考えていることと現場の理解がまるで違うのを目の当たりにしました。他の会社で働いている友人に聞いても、大体同じようなことが起きています。いつかそれぞれの立場でイメージしていることを可視化してみたいと思っています。
グラレコによって可視化したイメージを全員で共有できて初めて、「ではどうすればいいか?」という議論に進みます。また、可視化することでミッション・ビジョンへの納得感が上がれば、一人一人の駆動力ももっと向上するはずです。また時には、「我が社のビジョンは曖昧すぎてイラストに描けません。もっと具体的なものにしませんか?」といった根本的な議論のきっかけにもなるかもしれません。
この他にも、グラレコを導入したり何かと掛け合わせたりすることでイノベーションが起きる領域はまだまだあると思います。私はそのパイオニアとして、常に新しい可能性を探っていきたいです。
興味があるのは「今の自分には興味がないこと」。未知の可能性は、「いつものコミュニティ」の外でこそ見つかる。
私がいつも生徒さんにお話ししていることですが、自分でも気づいていない価値を見出してくれるのは「他人」です。「越境」という言葉を最近よく耳にしますが、自分が普段馴染んでいるコミュニティから一歩外に出て、違う文化・違う価値観に飛び込むことで、自分では気づいていなかった価値を見出してもらえるんです。
例えば、僕が今グラレコ用に描いている絵は、プロのイラストレーターから見れば大したことのない絵かもしれません。でも、エンジニアの勉強会やセミナーなど、外のコミュニティで披露すると、「絵が上手ですね!」って言ってもらえる。
自分では大したことがないと思っていても、ちょっと場所を変えるだけで人に認められる。越境することで得た成功体験が自信になって、次のチャレンジに繋がります。また、越境学習によって例えば「手話とグラレコ」のような、一見関係の薄いもの同士を掛け合わせて、自分だけの強みや価値を築くこともできます。そうやってどんどん新しい可能性が拓けていくんです。
大袈裟に聞こえるかも知れませんが、世界というのは本当に広くて、自分の目に見えているのはそのうちのごく僅かな一部分だけです。自身が当たり前と思っている能力が、まだ日の目を見ていないだけかもしれません。新しい領域に飛び込んで、うまくいかないことが多いかもしれませんが、私の経験上、少なくともそこで学んだことや挑戦したこと自体は決して無駄にはなりません。
だから私は、「今の自分にとって興味がないもの」にこそ興味があります。新しい学び、新しい自分との出会いにいつもワクワクしています。