次世代に渡って存続できる新しい書店を探る新プロジェクト「未来の本屋研究所」が始動
株式会社Schoo(以下、スクー)で今夏、新たに立ち上がったプロジェクト「未来の本屋研究所」。オンラインとオフラインを組み合わせた多様な学習体験や、新たな知との出会いによって学び続ける大人を支援することを目指しています。
スクーがなぜ、このプロジェクトを始めるのか。この先に待つ未来像はどのようなものか。森健志郎社長と、「未来の本屋研究所」推進担当者の佐竹真悠子さんに聞きました。
▼プレスリリース:
まだ世の中にない、本屋の価値を探る実験
——「未来の本屋研究所」とは、どのようなプロジェクトですか。
佐竹真悠子さん(以下、佐竹):今の書店産業に対して、ITオンラインサービスの会社であるスクーが外側から関わることで、次世代に渡って存続できる新しい書店のあり方を探り、未来に繋げていきたいという実験プロジェクトです。
今、本屋さんは全国で減り続けています。書店とスクーだけでなく、読者の方など多くの方を交えて、これからの書店の生存戦略について探っていきたいと思っています。
あえて「研究所」と名付けたのは、まだ世の中にない価値を生み出す場所であるとの自負を持ちたかったからです。スクーの行動規範「Laboratory(ラボラトリー) #105」にも、「まだ世の中にない価値を生み出し続ける『研究所』であるという精神を『学習・変化・尊重』の3つの行動指針を通じて実現します」とあるように、まさにこれから価値を出していくプロジェクトです。
既存事業とのシナジーを生み出し、世の中から卒業をなくす
——なぜ「本屋さん」に着目したのでしょうか。
森健志郎社長(以下、森):市場自体のポテンシャルや自社の強みが活かせることは前提としつつ、スクーが手がけている社会人教育、地方創生、大学・高等教育機関のDX(デジタルトランスフォーメーション)の3事業との強いシナジーを作ることができると考えたからです。
まず、本屋さんとスクーは補完関係にあると思っています。本屋さんは、本を売るという今までのビジネスモデルを続けるだけでは生き残れない危機感があります。そして我々スクーの視点では、本来学びはオンラインで完結できるものではなく、多様な手段を組み合わせなければ学びの効果を最大化することはできない。この両者の思惑に接点があると考えました。
佐竹:社会人が学ぶ手段としてオンラインが定着しつつありますが、メインの学び方はやはり本なんですよね。その本を届ける本屋さんは、学びを届けるインフラとして、私たちスクーでは代替しきれない重要な役割を担っていると思うんです。スクーのミッション「世の中から卒業をなくす」を実現するためには、本屋さんとの連携が必要だと感じています。
——それぞれの事業との具体的なシナジーを教えてください。
森:社会人教育において、多くの人に「大人が何か学びたくなったら『Schoo』だよね」と第一想起してもらうためには、オンライン上の認知だけでは不十分です。複合的に認知を広めていくためには、本屋さんというチャネルは有効だと考えています。何かを学びたいと思って本屋さんに訪れるお客様と「Schoo」のユーザーになりうる人の属性は似ているのではないかという仮説も持っています。
佐竹:地方創生の観点では、地方は学びに能動的にアクセスするきっかけが、都市部と比べて持ちにくいと思うんです。この観点で、街の本屋さんの役割は重要です。
本が身近にある環境で育った人は、学びが当たり前になりやすいんですよね。その環境づくりは家庭だけでなく街の本屋さんも担っていて、毎日の風景に本があるだけで学びの存在を無意識に感じさせてくれるんです。本屋さんは、文化資本の担い手だと思います。
スクーは地方の自治体・企業・市民の方々に学びを提供することで地方格差などの社会課題にアプローチしようと取り組んでいます。しかし、特に地方ではまだまだオンラインで学ぶという習慣が浸透しづらいと感じています。その観点で、文化資本の担い手である地方の本屋さんと提携することは、学びとの接点を増やす重要な打ち手であると考えています。
森:無機質なDXを地方にそのまま持ち込んで効率化を図るだけでは、街の良さが損なわれてしまう可能性がありますからね。文化を次代に継承することを前提に、未来の地域をつくっていくためには、そこに住む人々が自ら考え、街を変えていくことが重要です。だからこそ地域に住まう方々が学び続けることから始める必要があるんです。
そして、大学のキャンパス内や近所には必ず本屋さんがありますよね。教科書販売を起点として学生の知のニーズに応えるために、大学と本屋さんは共存してきました。しかしながら、本屋さんが衰退していく今、DX化した次世代の大学に応じた本屋さんの新たな姿を探っていく必要があると考えています。
本を「売る・買う」だけではない、新しい関係性を模索する
——マネタイズの方向性はどのように考えていますか。また、現段階で予定している施策についても教えてください。
森:これから様々な研究プロジェクトを通じてモデル設計を固めていきますが、前提として事業単体で高収益化を目指しています。全社経営方針として、事業単体で十分な売上・利益のサイズが見込める市場しか取り組まない方針ですし、実際に海外だと独立系の書店が急増しているマクロトレンドも存在します。
重要になってくる考え方は、「ただ本を買う場所」からいかに脱却できるかということです。そのためには本を買うことで形成されている今の書店市場からアクセスしやすい別の市場を繋ぎこみ、複数の市場の交差点としての書店をデザインしなくてはいけません。
近年でよくみられるカフェ併設や有償イベントの提供なども考え方は同じで、飲食市場やセミナー市場の交差点として書店を再発明しようとした結果であると捉えています。
HR市場を取り込みキャリアカウンセリングが受けられる書店、街のいたるところに本棚を設置して広告モデルを組み込んだ書店、顧客から受け取ったお金の一部を地域に還元するような地方自治に踏み込んだ書店。アイデアは多様に存在し、それらをその書店や地域の特性に合わせてデザインしていく必要があります。その有用性と再現性を実験していくのが「未来の書店研究所」というプロジェクトです。
佐竹:現在はプロジェクト第一弾として、東京・下北沢にある本屋B&Bさんとのコラボレーションを実施しています。通常、本屋さんに並べる本はプロである書店員さんが選びますが、今回は「Schoo」の会員や本の読者さんに選書してもらって棚づくりをするフェアを企画しました。本屋さんとお客様との「売る・買う」だけではない新しい関係性を模索する実験です。
森が話している「ただ本を買う場所」からの脱却を図るためには「関係人口の拡大」とその関係の質を変化させていくことが必要です。これをスクーが持っている資産を組み合わせて実現することを目指しているのが、今回の施策です。
人々が抱える社会課題と学びを、ストーリーで結びつけていく
——スクーとしての今後の展望をお聞かせください。
森:今、「Schoo」を「いいですね」と言ってくださる人たちの多くは、学びに対して好意的なんですね。一方で、世の中の大多数は「学ばなくていいんだったら学ばない」人です。つまり、学ぶことに前向きな人や学ぶことで今の課題が解決できることに気付いている人だけを顧客にしていては「世の中から卒業をなくす」ことは不可能です。
だからこそ、誰かが切迫感を持って悩んでいる社会の課題と、学びを繋げていくことが重要です。例えば、地域の皆さんがその土地にある良さを守って幸せに暮らすためには、今の基幹産業をDX化して、デジタルを積極的に活用していく必要があります。
これを実現する大きなネックのひとつが、人材の問題です。政策を進める市役所の人にも、当事者となる地域の皆さんにも、高いデジタルリテラシーが必要になります。最先端技術を学び続ける文化をその地域に作ることで、地域経済の永続的なモデルチェンジが実現し、ずっと守りたいものを大切にしながら暮らせますよというストーリー。これを作り、小さな形でも共に証明し、理解して納得していただく必要があります。
ここまで踏み込んで社会課題に向き合っていくことが、僕らがやろうとしているミッションとビジョンを連関して体現することだと思っています。3つの既存事業も、「未来の本屋研究所」も根底にあるものは一緒です。
地方創生や書店という市場は儲からないと言われます。でも、2011年にスクーを創業したときにも「社会人教育なんて儲からない」と多くの人から言われていました。多くの人が「儲かりそうにない」と諦めるが、長期の目線で大きな社会変化によって危機にさらされる、なおかつ別の市場へのアクセシビリティが高いドメインは、時間をかければ強い事業になりやすいと考えています。
株式会社Schooでは、利益が出る事業と出ない事業でバランスを取ろうとしたことはありませんし、これからも行いません。着手するすべての取り組みで高収益を目指していますし、それが成しえない領域からは撤退します。
他社の模倣をよしとしない精神で、これからも様々な独自の挑戦を続け、「世の中から卒業をなくす」の実現に向けて進み続けます。
▼「未来の本屋研究所」プロジェクト お問合せ先
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株式会社Schoo
http://corp.schoo.jp/
MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する