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“学び直しの期間にも収入を得られる仕組みが必要”ーー奄美大島ならではのプログラミング教育とは

都市部と地方の格差のひとつとしてあげられるのが、「学習・教育機会の格差」。

その課題を遠隔教育システムによって解決するための足掛かりとして今年5月、社会人向けオンライン生放送学習サービスを提供する「Schoo」は、鹿児島県奄美大島での地方創生推進の包括的パートナーシップ協定を奄美大島内の5市町村(奄美市、大和村、宇検村、瀬戸内町、龍郷町)と締結。これにより、奄美大島全島民約6万人が『Schoo』のサービスを利用できるようになりました。それに伴い、奄美市内にある専門学校でもSchooの導入を開始、教職員の方や学生の方々も利用を始められています。

毎年、一定のIターン・Uターン者はいるものの、高校生の進学や社会人の学び直しの際の島外への人材流出は止まらず、島内人口は年々減少しているという奄美大島。今回はSchooの導入を開始した「奄美情報処理専門学校」学校長の福山先生、学科長の田中先生と、株式会社Schoo CEO兼CCOの森の対談で語られた、奄美大島での学びの現状や学内でのSchooの活用法、地方ならではの教育の未来についてご紹介します。

※本記事は、2021年10月12日に「Pencil by Schoo」で公開された記事の再掲載です。
※「学校法人日章学園奄美看護福祉専門学校×Schoo」の対談記事はこちら。


資格取得は目指さない。奄美情報処理専門学校の実践的なカリキュラム

株式会社Schoo CEO兼CCO 森(以下、森):貴校は奄美で唯一の情報処理系の専門学校と伺いました。 

奄美情報処理専門学校学校長 福山先生(以下、福山):はい。この学校はプログラマーを育てるために創設された2年制の情報処理系専門学校です。2年制の類似の学校ではやらないようなことまで教えていて。創設20年ですが当初から、言語を教える講師は現場でプログラムを書いている講師を中心に集まってもらい、現場の匂いを感じさせる教育を目指しています。 

森:具体的にどういった特徴がありますか? 

福山:座学だけでなく、実践的なカリキュラムを通して実際に動くものをつくります。それによって、卒業後例えば、システム制作会社に入社したとしても、ほぼ即戦力のような形で現場でも活躍できる。そこが他の学校とは違う魅力だと思います。

 また、我々は「資格試験」を重視していません。その点も特徴かなと。なぜかというと、試験の内容は時間をかけて作られるため受験時には最新の情報ではないこともあり、その内容が必ずしも「今」求められる知識やスキルとかけ離れていることも多々あるからです。

資格を取ると「勉強したね」ということは評価してもらえるかもしれませんが、それが現場で使えるかというと、そのほとんどが現場には必要のないものと考えているので資格試験の対策を行っていないんです。その分プログラミングの授業を増やすことが出来ました。

森:表面的なことではなく、本当にその人が社会に出たときに使える技術や学びにフォーカスしているからこそ、2年間ですごく濃い時間を過ごせるカリキュラムになっているということですね。すごく素敵な作戦ですね。

福山:そうですね。なので「貴校ではどういった資格が取れますか?」という問い合わせが来ると困りますね。 

森:僕は福山先生のお考えにすごく共感していまして、我々Schooも一部資格試験のレベルを参考にした授業はありますが、本当に世の中で必要とされている、できる限り最先端のスキルの講座を用意しています。

誰かに証明できるものというよりは、本当にその人が前に進める、可能性を広げられるようなカリキュラムやコンテンツを提供しているので、福山先生の理念やお考えにすごく共感いたしました。

奄美大島で技術者を育成。「島全体の地域活性化」を

奄美情報処理専門学校学科長 田中先生(以下、田中):奄美大島には世界自然遺産登録など、最近いい部分が取り上げられていますが、他の離島と同様に人口減少などの問題も起きています。 

 

15年前、僕が高校生だった頃、母校の同級生は約280名いたのですが、現在では一学年で140名を切っています。ちなみに、気になってさらに調べたところ、15年前は奄美市内には高校が3校あり、1学年約700名いたそうです。しかし、その後合併で高校は2校になり一学年で370名と、約半分近くに減っているんですよね。 

我々は、なるべく奄美大島で技術者を育成して奄美大島全体の地域活性化につながるようにしていきたいと思っているんです。

森:すごくいいですね。僕がお伺いしたときに衝撃的だったことが一つあります。専門学校の学生さんたちが奄美大島の地域のシステム制作のアルバイトをしていて、実際に仕事に活きるスキルを身に付けながらポートフォリオ(実務経験や実績)を磨きつつ生活費や学費を賄っているというお話を田中先生から帰り際に聞いたことです。

首都圏の専門学校を卒業した学生さんたちは、結局ポートフォリオがないから就職できなかったり、実際に学んだことが仕事に活かせるのかどうかわからないまま就職してしまったりすることが多いと思います。 

かといって、首都圏以外の専門学校で学べばそれができるかというと、それも違うと思います。奄美大島という離島で、奄美大島の学生さんを地域全体で応援するという温かい気持ちが前提にあるからこそ、そういうことができる環境になったのではないかと感じました。

奄美大島という環境だからこそ、先ほど福山先生にお話いただいた学校の強みを加速させられているのは本当にすごいことだと思います。

70歳で学びなおす人も。学び直し期間にも収入を得られる仕組みづくり

田中:ありがとうございます。大阪の企業さんとうちの学校と奄美市と協定を結んでちょうど4年目になるのですが、大阪の企業さんの実務のプロの方に教えてもらって課題をもらい、それをこなして給付金・奨学金をいただいています。

奄美大島全体の所得が県外に比べると低いので、なるべく学生たちの負担を減らしたいという想いがあってスタートしたのですが、学生が力をつけながらお金ももらえる。そういういいサイクルができつつあります。

森:学費だけではなく、居住費も安いわけですよね。我々も社会人向けの学習サービスを提供してきたのですが、これから社会人が一定のキャリアを積んだ後、また違うことを学んで新しいキャリアを積むために、学校に通う人が増えると予想しています。 

そのときに一番ネックなのが、学んでいる間、収入が得られないことだと思います。そういった問題も、貴校と奄美市で取り組まれているような仕組みがあれば解消できますよね。実際に社会人の方も通われていて、そういう方も学びやすい環境なのだろうなと感じました。 

福山:そうです。うちの学校は高校から来る学生が6~7割で、あとは他の専門学校に通っていた方や大学に通っていた方、社会人の方です。他の専門学校や大学に通っていた方は、別の学校で自分が学びたいことを学ぶことができなかったと言って環境をガラリと変えてうちの学校に来ます。 

今までの最高齢は入学時70歳です。次が53歳、46歳の方、あと30代の方が結構いらっしゃいますよ。 

プログラミングの技術は日進月歩。先生も常に学び続ける

森:2017年から奄美市の皆様とお付き合いさせていただいていましたが、今回奄美市を中心とした5つの自治体様と包括提携をさせていただき、島にいるみなさんに我々の遠隔教育サービスを無償でご提供し、みなさんのやりたいことを実現するお手伝いをする取り組みを始めています。その中で、Schooを導入した感想はいかがですか?

田中:森さんがお話しされたように奄美市との包括提携が導入のきっかけです。実際にSchooさんの動画を視聴してみると、学生にとってすごく価値のある内容になっていると感じました。というのも、学生が動画で予習復習ができることはもちろん、ビジネスマナーや自己啓発など、僕が社会人生活を送る上でも大事だと実感してきた要素が多く取り入れられていたからです。 

実際に学生にも聞いてみると、そのほとんどが「各々のペースで学ぶことができるのでかなり時間を有効活用できる」と。そういった前向きな意見が多くあがりました。 

僕自身もSchooを使っています。自分が知りたいことをピンポイントで学ぶことができるのはいいと思いますね。学校でSQLを担当していて、環境構築をしてみんなに教えるのですが、その際に用語の説明が難しいところが多々あります。

そういった用語の説明が教科書では少し足りないところがあるので、Schooの動画を観てもらうことで知識の定着を図っています。 

森:先生にも使っていただいて、先生自身が教えやすくなっているというのは僕自身想像していなかったのですごく嬉しいです。プログラミングって新しいコードが出てきたり、新しい言語やフレームワークができたり、日々進化していくので教えるのは大変だと思います。先生も学び続けなければいけないですよね。

学生さんと先生方がSchooを使って一緒に勉強できれば共通言語で話すことができる可能性が広がりますよね。こういう部分ではミスコミュニケーションが生まれにくくなるかと思いました。 

課題は「少子高齢化」と「IT人材の不足」。地方の学校の未来

福山:森さんは様々な地方自治体や我々のような教育機関と取り組みをされていますよね。せっかくなのでお聞きしたいのですが、私たちのような、地方の高等教育機関は今後どういった変化があってSchooさんはどのように関わっていきたいと考えていますか?

森:釈迦に説法かもしれませんが、マクロの視点で言うと、2つあります。

一つは少子高齢化です。シンプルに高校生の数が減っていきますので、入学者が基本的には減少していくことになります。なので全ての高等教育機関が高校生しか受け入れない状況でいると、教育機関の数自体が減っていまいます。

もう一つはIT技術者の不足です。これからの日本は、数十万人のIT技術者をバックアップできる環境を増やさないと国際競争力が低下しますし、世の中のいろんな問題が解決できないということが明らかです。

この2つの変化の接点に立たれているのが貴校なのかなと思います。そんな中で我々に何ができるかというと、先生方の熱い思いや理念をこれからも持ち続けていただけるようなお手伝いや、それを必要としている人たちにお届けできるお手伝いです。 

たしかに場所は遠いかもしれませんし、遊園地やショッピングモールなどの遊び場は近くにないかもしれません。しかし卒業後も受け入れてくださって、教育に熱い先生方がいるというこの学校を我々のツールを活用いただくことで、より長く大きく続けていただければと思っています。

福山:なるほど。確かに我々のいるような地方では、顕著に少子高齢化が進んでいます。コロナ禍の影響で就職で島(奄美大島)に出るのが怖いということも入学者を減少させている一因です。元々少人数しか募集していませんが、問い合わせは来るので今が踏ん張り時だとは思っていますが、やはりそれではいつまでたっても経営はギリギリです。

自然豊かな環境での「学び直し」で得られるもの

福山:これからは、もっと地方ならではの魅力をPRしていかなければならないと痛感しています。以前東京から入学してきた学生がいたのですが、大学で教授との折り合いが悪く、かなり落ち込んで奄美に来ました。その子は奄美にきてすぐに原チャリを買って奄美中を走って、キャンプを一緒にしました。するとみるみる元気になっていったんです。

私たちが子どものころから当たり前にやっていることを体験させることで、ITのすごさと奄美のゆっくりした時間を感じてもらえればと思います。両極端のものの中で何か見つけてもらえるのではないかと考えています。 

田中:僕も奄美情報処理専門学校の卒業生なのですが、学校を卒業して東京で5年間プログラマー・SEとして働きました。東京では月曜日から金曜日まで週5日間働くサイクルだったのですが、奄美で働くとなると働き方が全然違います。

 

一日24時間あったら8時間仕事をして、8時間睡眠をとって、8時間自分の時間があります。8時から16時まで仕事をして、そこから海に行って遊ぶこともできます。奄美は奄美で働きやすくなっているんですね。 

いま、福山が奄美情報通信協同組合の代表理事を務めていますが、そちらで工業高校の跡地を借用して開発センターを作りました。もう10年くらいになりますが、現在は2階と3階合わせて70名ほどの人たちが仕事をしています。3階はデータ入力・データセンター、2階は島内のIT企業(システム開発・WEB制作・プロバイダ代理etc)が何社か入って一緒にお仕事をしています。

このように奄美でも働く環境が整いつつあるという強みと、奄美情報処理専門学校の強みを合わせてPRしていきたいと思います。

森:オンラインを上手く使って自分たちの強みを活かそうとしている高等教育機関ってまだまだ少ないです。なので一緒に取り組ませていただいていることを世の中に発信していくことで、きっと貴校に注目していただけるようになると思います。

 本当に貴校のような学校を必要としている方にも届くと思いますし、同じような悩みを抱えている他の学校さんのヒントになることもあると思います。ほとんどの学校は世の中の学生さんのために頑張っていらっしゃると思うので、そこを我々ができることで応援していきたいです。

本日は貴重なお話をありがとうございました。


■学校法人奄美情報処理専門学校ホームページ

https://amami-joho.ac.jp/

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