「社員が学ばない組織」の大きなリスクとは? 自主的に学ぶ組織づくりは待ったなし
変化が激しい現代において、自社が目指す方向性を実現するにあたり、DX(デジタルトランスフォーメーション)に伴う社員のリスキリングの必要性が高まっています。また、企業内大学など個人の学びを企業が支援する取り組みも、大手企業を中心に増えてきました。
しかしその一方、従業員の「自発的な学び」の促進には、多くの企業が課題を抱えています。多くの調査からは、日本のビジネスパーソンは学ばないことが明らかになっているのです。
こうした背景から、リクルートワークス研究所は2022年に「学びを阻害する職場の研究」プロジェクト(以下、本プロジェクト)を立ち上げ、スクーCCO滝川麻衣子も参画。「どのように学ばせるか」から「学びたくなる職場とは」に問いを変え、個人が主体的に学ばない背景を職場要因から明らかにし、学びたくなる職場づくりについての研究を行ってきました。
今回は、研究成果から明らかになった「学ばない組織の現状とそのリスク」について、リクルートワークス研究所 主任研究員の辰巳哲子氏と、株式会社Schoo執行役員CCO(Chief Content Officer)の滝川麻衣子の発言を交えてご紹介します。
産業構造の変化に、学びの変化が追いついていない日本の現状
近年、リスキリングの意識が高まる一方、諸外国と比較すると日本では大人が学ばず、企業も社員の学びへ消極的であることが、数々の外部調査から明らかになっています。社外学習や自己啓発を行っていない人の割合が高く、日本企業のOJT以外の能力開発費(GDP比)の割合も低いという結果が出ているのです。
なぜ、日本では大人が学ばないのでしょうか。本プロジェクトを通して明らかになったことの1つは、「産業構造が変化したにもかかわらず、学びのスタイルは以前から変わっていない」ことでした。
本プロジェクトの調査で、個人が学ばない理由に影響していたのは、「必要性を感じないこと」「何を学ぶべきかわからないこと」でした。さらに注目すべき点として、滝川は「学ぶ必要性を感じていて、学びたい分野があるにもかかわらず学ばない場合もあることが明らかになりました」と警鐘を鳴らします。
「この調査では『周囲や上司に学びを阻害されている』から学ばない、という回答も多かったのです。会社が決めた試験や研修ばかりを勧められたり、仕事に支障が出るので自発学習はやめてほしいといわれたりするなどの不満の声も挙がりました」(滝川)
また、社員が学ばない組織の特徴として、新たなチャレンジを望まない、あるいは定年まで働くことが前提となっているといった傾向が見られました。これらの特徴は、良くも悪くも、伝統的な日本型雇用の象徴であると言えるでしょう。
かつて、ものづくりが産業の中心だった時代は、社員全員が同じ技能を身につけることが是とされました。大量生産を実現するために、企業内集合研修で一律の教育を施し、OJTを通してスキルを磨くことが最適解だったのです。
ところが、産業構造がものづくりからサービス提供にシフトしたことによって、必要な学びを得る方法も変わったと、辰巳氏はレポート「大人の学びをどう捉えるか」の中で述べています。
「(必要な学びを得る方法が変化した)背景には、産業構造の変化により、仕事の内容がより複雑化してきたこと、一人ひとり異なる仕事の経験や専門性に対してこれまでのような、『講師がもつ知恵を参加者に共有する』という形式での一斉集合研修が成り立たなくなってきていることがあげられる」(「大人の学びをどう捉えるか」より引用)
調査において「周囲や上司に学びを阻害されている」という回答があがった組織では、学びとは会社が決めた技能を全員一律で身につけるものだ、という価値観が残っているのかもしれません。組織が個人の学ぶ意欲を削いでしまっているとしたら、非常にもったいないことです。
「学ばない組織」は、中長期的な企業競争力が低下するリスクを孕んでいる
産業構造の変化を背景に、自ら学ぶ必要性が高まる時代において「学ばない組織」はどのようなリスクを抱えているのでしょうか。
最初に直面するリスクとしては、優秀な人材を確保できなくなることがあります。リクルート就職みらい研究所の調査によると、学生が就職先を決める理由の一位に「自らの成長が期待できること」が挙げられています。
さらに、転職などキャリア相談も受ける滝川は、転職の相談を受ける中でも変化を感じているといいます。
「転職を考える理由として、『今の会社にいても成長できない』と話す人が最近特に増えたと感じます。企業の視点から考えると、労働力人口の減少によって、ただでさえ人材採用が難しくなっている中、学ばない組織は採用競争力や人材リテンションが下がるリスクに直面していることを実感しています」(滝川)
また近年は、人材をコストではなく資本と捉え、その価値を引き上げていくことで中長期的な企業価値向上を目指す「人的資本経営」が注目されています。人的資本の情報を開示する流れも出てきており、上場している大手企業には、2023年3月期の有価証券報告書から人的資本情報の一部を開示することが義務づけられました。現段階では、社員の学びに関する項目は開示内容に含まれていないものの、2022年に内閣官房が発表した「人的資本可視化指針」では、人材育成に関する開示事項の例が示されています。こうした動きからも近い将来、幅広い企業に対して従業員の人材開発についての情報開示が求められるかもしれません。
中長期的な視点で企業経営を考えると、社員が学ばない組織には優秀な人材が集まらず、人的資本の価値を向上することも難しいと言えるでしょう。ゆえに株式市場からの評価も下がり、企業としての競争力が低下していくという、大きなリスクを抱えているといえます。
個人が学ぶには「自分の心が動くこと」が必要。企業は社員の心をどう動かす?
では、どのようにして、社員が自主的に学ぶ組織をつくればよいのでしょうか。本プロジェクトでは、まず、大人の学び行動を以下の4象限に集約し、どのタイプの学びが自主的に行われるのかを探りました。
研究の結果としては、図の下半分にあたる中長期キャリアにつながる学びが、自主的な学びとの相関が最も強く見られることがわかりました。自分が将来やりたいことや、成長課題を認識している人ほど、自ら学ぶ傾向にあるのです。
また、キャリア熟達型の学びをしている人の学ぶ動機には、「キャリアの中でやりたいことがあるから」「学ぶ内容が面白そうだったから」といったことが挙げられています。滝川は、「自分の心が動く『自分軸』があることによって、学びが促されるのです」と、中長期キャリアにつながる学びのポイントを述べています。
これを組織づくりの視点で見ると、社員が自ら学ぶようになるには、まず本人にとっての「自分軸」を育む必要があるといえるでしょう。たとえば、社員に対して目の前の業務だけでなく中長期的な成長へのアドバイスをすることで、自主的な学びが活性化される可能性があるのです。
ただし、どの企業も同じように社員のキャリアや学びに対するアドバイスをすれば良いわけではありません。辰巳氏は「組織タイプによって、学びの傾向も違うのではないかと考え、研究をさらに進めました」と述べています。本プロジェクトでは、社員を自主的な学びに向かわせる打ち手を組織のタイプ別に見出し、研究結果のレポートで詳しくご紹介しています。ぜひご覧ください。
▶︎レポートはこちらから
https://www.works-i.com/research/works-report/item/learninitiative.pdf
▶レポート内容の要約版はこちらから
https://www.works-i.com/research/works-report/item/learninitiative_short.pdf
個人が自主的に学ばない組織は、企業としての競争力が低下するリスクを孕んでいることが明白になっています。本プロジェクトのレポートが、各企業の「学ぶ組織」づくりに向けた具体的な一歩を踏み出す参考になれば幸いです。
■株式会社Schoo
MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する