ホワイトカラーのリストラが増えている本当の理由 〜はたらくが激動の時代をどう生きるか〜 | Schooレポート vol.3
Schoo エバンジェリスト 滝川麻衣子
2024年は昨年に続き、次々にアメリカ大手IT企業のレイオフ(解雇)が報じられています。グーグル、アマゾン、メタにマイクロソフトと、いわゆるGAFAMと呼ばれる巨大IT企業が、業績好調にもかかわらず人員を大幅に削減。
少子高齢化によるかつてない人手不足と言われる日本でも、やはり就活人気ランキングに並ぶような大手企業が、リストラを続々と発表しています。
業績好調でも、人手不足社会でも、企業がリストラをする理由はなんでしょうか。背景を見ていくと、今が大きな構造転換のさなかにあることがわかります。
相次ぐリストラが象徴するもの
2024年4月、コニカミノルタが国内外で2400人を削減、続いて東芝が国内従業員5000人削減とのニュースが報じられました。日本経済新聞によると、コニカミノルタは「事務機市場がペーパーレス化で縮小することをにらんだ」もので、海外の生産拠点や、販売子会社が対象。東芝は「本社の間接部門(筆者注:総務・人事・経理など売り上げには直結しないセクター)が中心となる」とのことです。
日系大手企業の早期退職募集、つまりリストラクションはこのところ相次いでいます。報道によると、資生堂1500人(2月)、オムロン1000人(2月)、イトーヨーカ堂700人(1月)。東京商工リサーチの調べでは、2024年1-2月に上場企業の早期・希望退職の募集人数は3613人で前年同期の6倍に達しています。(その後も増えているのは冒頭のとおり)。
新卒採用市場では、相次ぎ初任給を上げて採用を強化する動きがあるのに対し、就活人気ランキングに入るような大手企業でも、人員整理に乗り出しているのです。
これらニュースを見て、みなさんはどう思われたでしょうか。
赤字部門の縮小というケースは当然ありますが、東京商工リサーチ調査では、1-2月の時点で6割が直近決算で黒字です。
筆者が感じたのは、オフィスワークそのものが今後減っていく流れが、いよいよかたちを表し始めたということです。コニカミノルタが事務機事業のリストラクションに乗り出したことにも象徴されています。
2000年代(ゼロ年代)には、オフィスにはまだまだ人がいました。記者としていろんな企業や職場を取材しましたが、訪問先では対面での受付に始まり、取材相手の秘書や広報、チームの人たちが出てきます。それに加えて社内には営業、人事、経理、商品開発などありとあらゆる職種の人がいました。
さらにそれらをサポートする事務職の人がこれまた、正社員、契約社員、派遣社員にアルバイトとさまざまの雇用形態で働いていたものです。
それが今では、いろんな会社で受付は無人化され、労務管理や経理、営業管理もSaaSが導入され、コミュニケーション手段もデジタル化。オフィスだって当初の広さはいらなくなります。これらが一気に進んだのは、ご存知のとおり、コロナがきっかけです。
アメリカメガテックのレイオフの背景
アメリカのメガテックのレイオフ(解雇)も、昨年に続き盛んです。
報道によると、Googleは拡張現実(AR)に関わる部門はじめ、あらゆる部門横断で昨年の1.2万人に続き数百人を削減。メタは人事や事務職、成果の出ていないプロジェクト、管理職など昨年から累計2万人を削減。アマゾンもコロナ下で大量採用した人材を、累計数万人規模で、断続的に減らしています。
注目すべきは、これらメガテックが決して業績悪化を理由とはしていないことです。Googleの2023年第4四半期は増収増益で過去最高。アマゾン、メタもまた2023年10~12月は過去最高をたたき出しているのです。
では、業績好調の大量レイオフが意味していることは何でしょうか。
この一年を振り返ると、生成AIの台頭がIT産業のビッグトレンドで、今なおそれは白熱しています。ゴールドマン・サックスのレポートは、生成AIの普及によって、世界のGDP が 7% (ほぼ 7 兆ドル) 成長し、10年間で生産性が1.5ポイント押し上げられると予測しています。
つまり、世界のビジネストレンド、次の「宝の山」は生成AIです。
上記のメガテックが、他に分散してきた人的リソースを生成AIに振り向けて、そのジャンルを加速させようとしていることは明白ですね。さらにその狙いは「他事業をリストラして、生成AIの研究開発をする人員を採用する」にとどまりません。
このようにサービス開発が進み、日々の仕事にAIが取り入れられると何が起こるでしょうか。前述のゴールドマン・サックスのレポートは「アメリカの3分の2の仕事がAIの脅威にさらされる」としています。
同社レポートでは職種別に、AIに代替される割合を示していますが、次の順に高いです。
一方、清掃1%、メンテナンス4%、建設/採掘6%と、体を使った仕事の代替率は非常に低いことが見て取れます。いわゆるオフィスワーク、ホワイトカラーと呼ばれるような仕事こそが大きな影響を受けるわけです。
少子高齢社会で経済がダウントレンドの日本に限らずとも、グローバル規模で私たちは、そもそもホワイトカラーが従来のようにはいらなくなる時代に突入しているのです。
絶好調の米IT大手で相次ぐレイオフは、AIのサービス開発に人を振り向けるためだけではなく、まさにこの「ホワイトカラー不要時代」を象徴していると言えるでしょう。
私たちはどう生きるか
この記事を読んでくださっている皆さんの多くは、ホワイトカラーの仕事をされているのではと予測します。そして書いている私も同じです。ホワイトカラーの職種の人たちは、これからまだ続く人生で、どんな仕事、生き方をしていくべきでしょうか。
これについては「AI時代の人間に求められるもの」というテーマの議論や考察が、さまざま起こっています。
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生は、Business Insider Japanのこちらの記事でChatGPTの①まっとうな答えを出すことが得意②そもそも言語モデルである③実存する実体がないーーという特徴の逆手をとった戦略をとるべきだ、つまりChatGPTの苦手な領域が、これからの時代に求められると、指摘しています。
(詳細を知りたい方はぜひ、記事を読んでみてください。ブルーカラーへの注目度が変わるなど、非常に興味深い内容です)。
世界最高齢プログラマーで知られる、88歳の若宮正子さんは、経済産業省のオウンドメディアの取材で「AI時代だからこそ人間力が必要」と答えています。また、人間力は知識だけではダメ。「子どもの頃から勉強だけでなくさまざま体験を積み重ねること」で育まれれると、話しています。
Schooの学習コンテンツでも実は、「AI時代の人間力」を注力・カテゴリに置いて、人間ならではの思考力や創造力が身に付くコンテンツを特集しています。ぜひ一度、のぞいてみてください。
体験の価値が爆上げされる?
ホワイトカラーの次の時代はどんなかたちをしているのか。私自身は「体験」こそが、変え難い価値を発揮する時代になると考えています。
AIには肉体、生命がありません。だからこそ、体を動かし身をもって知ったこと、学んだことこそが人間の価値になる。
誰かが体験したことが情報化されたものをインプットして正解を出す行為「だけ」ならば、圧倒的に膨大なデータを扱える生成AIの方が、得意です。
一方で、自分が肉体をもって世界で体験すること、そこで生まれる感情や思考は自分のものです。言語化、情報化されてインターネットの海に投じられている「情報」ではない、検索できない「体験」こそが、人間ならではの原動力になると思うのです。
そうなると今後、お金を溜め込むよりも得られる体験に使う、安定して見えるホワイトカラーの仕事を得るために教育費をつぎ込むよりも、カオスな環境でも生き延びるタフネスを身につけるため、多様な体験を優先するー。こうした選択が、もっと増えるのではと思っています。
仮にそうだとすると、学ぶ内容や様式も、より身体的な体験に価値の置かれたものになっていくかもしれません。
みなさんならどう考えますか。
時代の変わり目に起きるさまざまの議論、発信を吸収しながら「自分ならどう考えるか」を、ぜひやってみてください。
■株式会社Schoo
MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する