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データに基づく最適な学修パッケージを一人ひとりに。九州大学とスクーが動画を用いた学修行動の分析から「学修者本位の教育」実現を目指す

スクーは「学修者本位の学び」実現に向けて学修者に対する個別最適なコンテンツ活用・推奨の仕組み構築を図ることを目指し、2023年7月より九州大学と動画コンテンツを題材にしたデータ活用に関する共同研究を本格的に開始しました。

ラーニングアナリティクスは、データの分析に基づいてより効果的な教育・学修を実現することを目的とした新しい学問分野です。九州大学は、2016年に日本の大学で初となるラーニングアナリティクスセンターを設立し、学修データ分析などの研究の最先端を走り続けています。

今回、同センター長である谷口 倫一郎理事・副学長と、島田 敬士教授・総長補佐に、九州大学の学修データ活用の取り組みや今後の展望、スクーとの共同研究で期待することについてお話を聞きました。

△ラーニングアナリティクスセンター センター長 谷口 倫一郎理事・副学長(左)、
島田 敬士教授・総長補佐(右)

ーー2016年、日本で初めてのラーニングアナリティクスセンターが九州大学に設立されることになった経緯を教えてください。

谷口
ラーニングアナリティクスセンターは、データに基づく教育・学修の改善に貢献することを目的に、教育システムの運用、教育データの管理、データ分析・可視化技術の開発、教育・学修改善の支援などを組織的に実践する機関です。設立のきっかけとして一番大きなポイントになったのは、学生一人ひとりに対しデジタル端末を必携化した事です。2013年4月からインターネットを使用した調べ物やプログラミング教育の実施のために、BYOD(Bring Your Own Device)を始めました。学生が皆自分の端末を持っていて、かつ使い慣れているということが、後に学修データの分析など色々な施策を行う上ですべての土台になりました。

島田
さらにPC必携化とほぼ同時期に、低年次の教育を中心に大学全体の教育のマネジメントを行う基幹教育院が立ち上がり、2023年10月に教育工学を専門とする緒方広明教授(現在は京都大学に勤務)と私が同院の情報科学部門に着任しました。当時の情報担当理事と教育担当理事の先生から、「教育システムを整理してデータを集める仕掛けを展開できないか」というお話をいただき、そこでラーニングアナリティクス(LA)というキーワードが出てきたのが始まりです。当時はアメリカでラーニングアナリティクスが流行り始めた頃で、私自身そのキーワードすらも知らない状態でした。

谷口
このような流れの中、2016年2月に基幹教育院の内部組織としてラーニングアナリティクスセンターを設立し、様々な研究と実践を行ってきたのですが、基幹教育院の中だけでラーニングアナリティクスの話をしていてももったいないということで、2021年4月に全学組織になりました。

そうこうしていると世間ではデジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードがでてきました。九州大学でも、教育研究だけでなく健康医療や色々な領域までDXの話を広げていこうと、2022年4月に総長直轄の組織としてデータ駆動イノベーション推進本部が立ち上がりました。この組織とは当センターも密に連携しており、教育に関するDXをはじめ、研究、健康医療、さらに業務系も含めた大学全体のDXを推進しています。

PCの必携化から始まり、スモールスタートでできることを紡いでいった結果、今やここまでに大きな取り組みになりました。

ーーセンター設立から約7年。どんな成果が見えてきているのでしょうか?これまでの歩みと共に教えてください。

島田
学修の個別最適化を実現するといっても、ある程度学修データが揃わないと分析研究ができませんので、まずはデータを集めるための仕掛けを用意し、学生たちに使ってもらうことから始めました。

一番初めはMoodleという学修管理システムを取り入れ、出席状況や教材のダウンロード、課題の提出、小テストの受験といった学修データを取得しました。次にいわゆるポートフォリオといって、学生が授業内外に関わらずその日学んだことを振り返って自由に記述する学修日誌のようなものを集め始め、これは今はMoodleに統合して継続運用しています。

ただ、先ほど挙げた学修管理システムのみでは、例えば資料をダウンロードしたことは分かるもののいつ読んだかは分からないですし、課題を提出したことは分かってもその課題提出に至るまでにどんな学修をしたかはわかりません。そうした部分を補完し、より細かく学修プロセスを記録するために、デジタル教材の配信基盤を九州大学で独自開発し、学修プロセスのログ化に取り組んできました。

こうして、分析に必要なデータを効率的に集めるための仕組みを少しずつ増やしていったというのがこれまでの7年間です。  

現状のラーニングアナリティクスでは、システムに溜まっている操作ログの分析が大半です。そのため、どれぐらいの頻度でシステムにアクセスしたかや、デジタル教材をどれぐらい時間をかけて読んだかは分かりますが、それ以上踏み込んだ分析にはまだまだ到達しきれてないところがあります。

学修者ごとに最適な教材のリコメンドができるようになるには、まずは学修者の現時点での理解度を正確に測る必要があります。人間の理解度について定義する研究分野があり、それとラーニングアナリティクスを融合させたいのですが、そのやり方はまだまだ確立されてないので、今後研究者としては攻めていきたいところですね。

ーーそして2023年1月から九州大学とスクーの共同研究の準備が始まり、7月より本格的な研究が始まります。共同研究を始めた経緯を教えてください。

島田
お話した通り、九州大学ではデジタル教材のログを収集し分析する研究を長らく続けてきました。一方で、動画教材に関しては実はあまり配信基盤の整備が進んでおらず、コロナ禍で動画配信を行うようになってからも、各教員がそれぞれ録画した動画を好きな場所にアップロードして配信するにとどまっていました。そのため、学生がその動画をどのように視聴したかという学修ログについては収集できておらず、もったいない、何かできないかと長らく悩んでいたんです。

そんな折にスクーさんと出会い、高等教育機関向けDXプラットフォーム「Schoo Swing」の導入を決めました。同プラットフォームのログ分析画面を拝見した際に、動画教材を対象としたラーニングアナリティクスを推進できる可能性に強い期待を抱くことができたことが、共同研究を始めようと思ったきっかけです。

ーー今後の共同研究の展望やスクーに期待することを教えてください。

島田
動画の視聴ログだけでなく、動画教材そのものが持つコンテンツ情報の分析等も進めて、個人に適した動画のレコメンドや、学修テーマに沿った動画のパッケージ化などを行うための研究を進めていきたいです。

教員がどのくらいの時間をかけて何を説明してるのか、どんな表情で、どんな声のトーン・テンポで話しているのかなど、動画はたくさんの情報を持っています。映像を視覚的に分析するなら画像処理や画像認識の領域ですし、音声の分析には音声処理、音声のテキスト抽出ができるのであれば自然言語処理技術というように、マルチメディア処理を駆使して動画そのものが持っている特徴をタグのように学修データと紐づけることができれば、どんな動画がどの学修者に適していたのか、または適していなかったのかが分かるようになります。

例えば「Schoo」の授業動画はほとんどが1コマ60分ですが、それぞれの動画をチャプターごとに分解して情報タグを付与しておいて、学修者の理解度や学修にかけられる時間などに応じて組み合わせれば、その人だけの最適な授業パッケージを作成しリコメンドすることができます。

我々はそれに近いことをデジタル教科書でずっとやってきましたので、今回の共同研究でこれを動画にも展開できないかと考えています。

谷口
我々のミッションは、教育データの管理・分析を通して本学の教育・学修の改善に貢献することですので、やはり大学の講義の中でラーニングアナリティクスをより効果的に活用できるようにしていきたいです。

そのためには、大学ならではの抽象度の高い授業に対してラーニングアナリティクスがどうアプローチできるかも考えていく必要があります。教員の方々の中には、黒板の前でチョークを握って数式を書いていくことが教えることの本質なんだとおっしゃる先生も多くいます。そういった意味では、教える先生たちとの関係性の問題もあり、そうしたアナログ主体の授業でどうやってデータを取っていくのかという問題もあります。ただ、そうした問題を共同研究によって一緒に解決し、ラーニングアナリティクスのアプローチを取り入れられれば、大学教育はより面白いことになると思いますので期待しています。


■株式会社Schoo

MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する


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