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若手社員が抱えているのは“不満”ではなく“不安”――企業は若手社員とどう向き合うべきか?

新年度を迎え、新入社員を迎えることになった企業も多いことでしょう。新たな人材と共に歩み始める4月は、ビジネスパーソンが “働くこと”について改めて思考を巡らせる季節かもしれません。

今回は企業側の社員育成の課題、そして昨今のビジネスパーソンたちのキャリア観について、『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』(中央公論新社)や『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学』(日経BP)などの著書で知られるリクルートワークス研究所 主任研究員の古屋星斗さんにお話を聞きました。


「若者やZ世代に特有の価値観がある」というのは幻想。価値観は多様化・二極化している

—— Z世代をはじめとする若者の価値観に、世代ギャップを感じるという声をよく聞きます。企業や個人はどう向き合うべきでしょうか?

古屋星斗(以下、古屋):最初にお伝えしたいのは、よく「Z世代特有の価値観がある」といった言説で語られることがありますが、それは幻想に過ぎないということです。職業生活への志向性のデータを取ると、「二極化しており平均値で語ることが難しい」こと、そして「これまでの世代ともそれほど変わっていない」ということがわかります。

例えば、「Z世代はプライベート志向」と言われることがありますが、これは30〜40代にもほとんど同じ傾向が見られます。また、「忙しくても給料がいい仕事がしたい」という人と「給料は低くとも落ち着いて働きたい」という人の割合はほぼ半々、「現在の会社で長く勤めたい」という人と「魅力的な会社があれば転職したい」という人の割合もフィフティフィフティに近いです。そうした二極化が生じているので、「今の若者はこうだ」と平均値で語ることは無理があるし、意味がないというのが現実なんですよね。

——「若者は飲み会が嫌いだ」といったような印象も、単なる作り上げられたイメージに過ぎないのでしょうか?

古屋:そういう人は一定数いるけど、それがすべてではない。僕はアラフォーですけど、飲み会はあまり行きたくないし、帰って自分の時間を過ごしたいと思ったりします。一方で、若手社員のなかにも自発的に飲み会を開こうと企画するような人もいる。若手社員の印象を勝手に決めつけてしまうことによって、見逃してしまうものが多いのではないかと思います。だから、相手のわからないことを価値観のせいにしてはいけないと、特に上の世代の人には伝えたいのです。

—— 価値観には大きな変化がない一方で、大卒3年以内の離職率が3割を超えていたり、副業や転職をしたりする人が増えている印象も受けます。これはどのような要因があるのでしょうか?

古屋:新卒社員の3年目までの離職率はここ数年で急激に上昇したわけではなく、全体平均では実はここ10年でほとんど変わっていません。32%程度で、ほぼ横ばいなんですよね。ただ、従業員規模1000人以上の大手企業の離職率はここ10年ほど増加傾向にあるのは確かで、2011年卒の21.7%から2020年卒の26.1%へと上昇しています。

出典:厚生労働省, 新規学卒就職者の離職状況

また、合わせて副業を希望する人は全体の4割くらいで、実際に副業している人は6%から7%ほどですが、副業・兼業を認める大企業は急速に増加したこともあり、希望者が増加していると指摘されます。

こうした状況が生まれている背景には、職業人生における選択回数が格段に増えたことが挙げられると思います。実際、直近で日本の社会人は20代のうちに過半数が転職を経験することがわかっており、早いタイミングからキャリアチェンジの可能性があるだろうと予測されるようになっている。そのキャリアチェンジに備えて、必要なスキル、経験、ネットワークを身につけなければいけないと考えるのもごく自然な流れ。

僕はこれを「新しい安定志向」と呼んでいますが、「寄らば大樹の陰」で大きな組織に入ったことで安定や安心を感じるよりも、自己が社会から求められるスキルや経験を身につけて自分の人生をサステナブルに形成したいと思う気持ちが顕在化したのだと思います。

成長実感の少ない「ゆるい職場」に、若手社員は“不満”ではなく“不安”を抱えている

—— ずっと同じ会社で働くだろうとは考えていない中で、いつかの転職のために、自分に市場価値があるかどうかを常に考えるような社会になっていると。

古屋:そうですね。男女問わず大きなライフイベントなどもあって、例えば育休で離職しなければいけない状況なども出てくる。そこでもやはり、自身に身についた経験やスキル、ネットワークが復職の支えになるんですね。そうした状況に置かれた若手社員が、大手企業のキャリアパスに不安を感じて辞めてしまう事例が顕在化してきたのが現在だと思います。

これまで日本社会は、「仕事がきつくて辞めます」という人に向けて労働環境を改善してきました。労働時間を短く、有給を取りやすくしましょうと。これは会社単体の意識というより、働き方改革関連法などの法改正によって実現されていることなので、中長期的にすべての会社が働きやすい職場環境になることは確かです。ただ、実はその改革のなかで、「仕事が“きつく”て辞めたい」という若手と合わせて「仕事が“ゆるく”て辞めたい」という人が増えているということが新たな発見です。

—— 残業時間が減ったり、居心地がよくなったり、ハラスメントが減ったりと職場環境の改善が起きているのに、なぜ若手社員は離職してしまうのでしょう?

古屋:その点を考えるうえで、「会社に不満はないけど“不安”がある」という視点を持つことが大事だと思います。

現在の若手社員に対して「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」という質問をしたところ、「強くそう思う」「そう思う」と回答した者の割合は48.9%に及びました。将来的なキャリアチェンジを見据えるなかで経験、スキル、ネットワークを築かなければいけないという切迫感があって、自分の勤める会社ではそれを得られないと感じている社員が多いという結果なのです。こういった心情のことを、私は「キャリア不安」と呼んでいます。

大手企業若手社員の職業生活認識(「そう思う」割合)

改めて言っておきたいのは、「ゆるいから辞める」のは全員が全員そうではないということです。価値観は多様化していて、一概には語れない。「きつくて辞める」「ゆるくて辞める」「今の職場はちょうどいい」と感じている人の割合はほぼ3割ずつで推移している状況です。

—— 新しい経験やスキルを身につけようと思ったときに、社外での副業などでその機会を得ようという考え方になっている方が増えていると聞きました。しかし、そもそも経験やスキルを今いる会社で得ようとするのは難しいものなのでしょうか?

古屋:いや、これは全然可能だと思うんです。自分で機会を取りにいこうと手を挙げて、プロジェクトに参画したり異動して活躍したりすることはできます。企業にとっても希望がある若手社員に対してはチャンスを与えたいので、「今の仕事に満足していない」と上司に悩みを打ち明ければ、何かしら改善される可能性は高いでしょう。

ただ、そういうことをしているロールモデルとなる先輩がほとんどいないのが問題ではありますよね。過去には会社の仕事をしっかりこなしていれば成長し出世できたわけで、自分で仕事を生み出したりする必要はなかったわけですから。

—— そうした若手社員の意欲や不安に向き合うために、上司は何をすべきなのでしょうか。

古屋:魔法の杖はありませんが、目の前のひとりの人間とコミュニケーションを取ることが重要になります。その際のポイントは、「何をしたいか」だけでなく「(これまで)何をしてきたか」を聞くことです。

特に、学生時代の社会的経験は人によってかなり異なることがわかってきています。スタートアップでロングインターンをしていた人や、大学で起業した人、PBLの授業で企業と連携して成果物を作った人など。それぞれの経験から身につけたスキルがあり、就職面接における単なる“ガクチカ”で消費するのではなく、その経験に企業と上司は期待してほしいです。その違いが職場の仕事をアサインする際にも、配属先を決める際にも、ポイントになります。

若手も上司も、積極的に職場の外に出て異なる価値観に触れよう

—— 上の世代にあたる経営者やマネジメント層は、急激な働き方の変化によって若手社員の育て方の変革が求められています。変化を受け入れていくために、どういった意識が必要になると思いますか。

古屋:カッコつけないことが大事だと思います。以前は経営層というのは一点の曇りもない完全無欠のリーダーシップを振るうのが美徳とされていたわけですが、わからないことはわからない、無理なことは無理だとまわりに助けを求めていい。ここ10年で労働時間が一番減ってないのは40代・50代の管理職だと言われていますから、管理職こそ孤独なのは間違いありません。だからこそ悩みを吐露していいし、そうした行動を取ることで、日本の組織はどんどんいい方向に向いていくのではないでしょうか。

—— 若手を育てるうえでのポイントはなんでしょうか。

古屋:職場だけで育てない、つまり管理職に教育を押し付けないということですね。労働時間が短くなり、OJTでしっかり鍛えるといった育て方が難しくなりつつあるなか、職場だけで育てることには限界がある。だから職場の外、それは別に企業の外ではなくても、若手の有志で勉強会を開いてみようといった動きが各企業でも積極的になってきていますよね。これを活かすのです。

副業や兼業を推進するのもいいと思います。職場の外を見る経験がある人のほうが、かえって自社で働く魅力に気づけることは多い。大手企業同士で「相互に育成目的で若手社員の出向を受け入れる制度」を設けたことがニュースになっていましたが、こうして外で育てることをルール化するのも一つの案です。「越境学習」という考え方もあり、ホーム(自社)とアウェイ(越境先)を行き来することで、異なる価値観や習慣に触れ、それぞれの職場に経験やスキルを還元することもできる。

—— 一方、キャリア不安を抱えている当事者である若手社員は、どのような意識・行動が必要になると思いますか?

古屋:今の職場環境に安心していないというときに、「転職」というアクションしか選択肢がないというのはもったいないと感じます。自分の人生を豊かで持続可能なものにしていくための選択肢は、別に転職だけにあるわけではない。社内でチャンスを掴むことや、副業・兼業に挑戦する、リスキリングに取り組むといった打ち手もあります。

一方で、そうした多様なチャンスを自分で獲得しなければいけないことに自信がない人もいるかと思います。副業したいと思う人に対して実際している人が6分の1程度しかいない状況からもわかる通り、何かモヤモヤしているけど一歩踏み出すことが難しい、または会社が許してくれないと感じている人は多いでしょう。

そうした方々へ伝えたいのは、「言い訳から始める」ということです。言い訳って悪い意味で使われることが多いですが、これがあると一歩踏み出しやすくなる。何かの勉強会に参加することになったとして、それを「上司に言われたから」とか「会社の指示で来ました」と言ってもいい。最初の一歩目から意識高くある必要はないのです。実際にその場に行って何かの経験を得られたのならば、そこに辿り着くまでの理由なんて後々振り返れば些末なことですから。そうした言い訳から始まった小さなアクションが、現状の課題に対する変化の兆しを見出してくれるはずです。


リクルートワークス研究所主任研究員
古屋 星斗氏
2011年一橋大学大学院社会学研究科修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。17年より現職。労働供給制約をテーマとする2040年の未来予測や、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。法政大学キャリアデザイン学部兼任教員。著書に『ゆるい職場――若者の不安の知られざる理由』(中央公論新社)、『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学』(日本経済新聞出版社)。


■株式会社Schoo

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