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「対話と挑戦」が循環する生態系をつくりたい━━持続可能なリスキリングモデルで日置市はどう変わる?

鹿児島県の中央部に位置する日置市は、人口4万6,000人の町です。2024年8月からスクーとの連携協定を締結。行政・地域企業と協同し、新たに地域における持続可能なリスキリングモデルの構築に向けて共に歩み始めました。
日置市が抱える課題とは?社会人教育市場を牽引するスクーと連携したその先に、どのような未来を描いているのでしょうか。37歳で市長となり、先進的な取り組みで日置市を牽引する永山由高氏にお話を伺いました。

▼プロフィール
永山由高(ながやま・よしたか)
鹿児島県日置市出身。中学・高校時代は陸上競技に没頭し、110mハードルで九州大会優勝の実績を持つ。九州大学法学部に進学し、福岡の県議会議員の秘書見習いをしながら政治やまちづくりに触れる。卒業後、日本政策投資銀行に入行し、4年間金融やビジネスを学んだ後鹿児島に帰郷して創業支援のNPOを経て、コミュニティデザイン会社「鹿児島天文館総合研究所Ten-Lab」を設立。「九州移住ドラフト会議」をはじめとするまちづくりの企画提案や伴走を10年間行う。令和3年に37歳で日置市長選挙に出馬し、当選。現在41歳。


自分の主観「あったらいいな」をアクションの起点に

━━ 市長になるまでのキャリアを教えてください。

永山さん:大学卒業後、まずビジネスを学ぼうと政府系の金融機関に就職しました。リーマン・ショックを機に鹿児島に戻り、創業支援のNPOで仕事をしました。

その頃、おすすめの本を持ち寄って紹介し合う読書会を街中で立ち上げたら、学びの場を求めるビジネスパーソンを中心にどんどん広がっていって。ビジネスディスカッションやコンサル的なまちづくり提案までやるようになり、反応が良かったのでこれはビジネスになるぞ、と。コミュニティデザインを行う鹿児島天文館総合研究所Ten-Labを設立し、県内13自治体で活動してきました。

━━ なぜ市長になろうと思ったのですか?

永山さん:私の場合、起点はいつも自分自身の"欲求”です。読書会を始めたのも、銀行員時代のスキルと経験だけで仕事をしている自分に不安を感じて、不安を解消するために学ぶ仕組みを作りたかったから。8年前に立ち上げた「九州移住ドラフト会議」もまさにそれ。人と地域の出会いはもっとおもしろくできる。そう思ってエンターテイメント化した結果、人気のプロジェクトとなりました。

民間企業を10年やりながら感じていたのは、行政はまだ人的資源をうまく活用しきっていないということ。行政がしっかり機能しないと地域の幸福度は上がっていきません。それなら自分がやろうと手を挙げ、市長選に挑みました。

高齢化対策も子育て支援も、自分が将来歳をとった時に楽しく暮らしたいし、子育てする父親として不安は他のお母さんお父さんも同じだろうなという欲求に基づいて取り組んでいます。

※九州移住ドラフト会議…移住に興味がある人を「選手」に受け入れたい地域を「球団」に見立てた交流イベント。

関係人口の力を市政につなげるために

━━ 日置市がいま抱えている課題は何でしょうか。

永山さん:やはり一番は高齢化社会への対応です。現在日置市の人口ピラミッドの最大ボリューム層は74歳を中心とする団塊世代。今はまだ元気でも、10年後には運転免許返納や身の回りのケアが必要になってきます。そうなった時に高齢者が生き生きと暮らせる、支え合いの環境をどう作っていくかが最優先課題です。

日置市には176の自治会があります。地区内の道路の管理やゴミ集積場の管理など、特に中山間地域では自治会がライフラインの要です。ところが、自治会員の減少や高齢化が進み、もはや自治体だけでは暮らしの維持が難しくなってきました。

これからは民間のプレイヤーに積極的に関わってもらうなど、仕組みから変えていかなければ地域が持続できない段階にあると実感しています。

景勝地「吹上浜」は日本三代砂丘の一つ。美しい自然も同市の魅力の一つだ。

━━ 若い世代に対する課題に関してはいかがでしょうか。

永山さん:日置市内には大学や専門学校がなく、18歳でかなりの数が市外へ転出するのですが、2023年度は転入数が転出数を超えました。つまり、外で一定の経験を積んだ人たちが比較的帰ってきてくれている状況といえます。子育て環境の充実を含め、これからも帰ってきてもらえる環境をどう作り続けていくかがもう一つの重要な課題だと捉えています。

━━ 転入数が転出数を上回ったのには、何が影響したのでしょうか。

永山さん:津々浦々に張り巡らされたインフラの維持を考えると、、市税収入だけで暮らしを維持することは不可能です。そこで生まれた制度が「ふるさと納税」で、そのコンセプトには非常に共感します。

ふるさと納税のように、生まれ育ったまちのことを応援できる仕組みは、人が流動する現代には必要な政策。出身者だけでなく日置市に関わりたいと思う人たち、つまり“関係人口”の力を市政につなげることはすごく大事だと感じています。

また、日置市では「ひおきと」というWEBメディアで、関係人口に向けた情報発信をほぼ毎日行っています。登録者数1万人を超える公式LINEでも定期的に情報を届けていますし、「日置市は動いているな」というアクティブな印象を与えられているのではないでしょうか。

地方こそ打席に立つチャンスに恵まれている

━━ 市長ご自身がUターン人材です。都市と地方の両方を知っているという目線から、両者の課題をそれぞれ教えてください。

永山さん:都市には刺激があって、変化を許容する空気があります。自宅を一歩出ればある種のパブリックな空間があって、いろんな選択が可能で、人に干渉されずリラックスできる居場所を見つけやすいというのがメリットです。一方で、コンクリートに囲まれた空間で満員電車に揺られる毎日は、身体的な負荷が大きい。また、高度にシステム化されているため役割分担が細かく、代替可能がゆえに「自分がやらなければ!」ということを感じにくい環境です。

地方はその逆で、自然が豊かなので身体的なリラックスを得られる環境はたくさんある一方、精神的にリラックスできる場所は少ない。家を出ても周りは誰かの所有物で、パブリックな空間が少なく、常に誰かに見られている感覚のなかで生きています。

それでも、地方は人口が少ない地域も多いので一人ひとりの役割が大きく、打席も比較的早く回ってくるため成長するチャンスには恵まれています。あらゆる分野にプロフェッショナルな人材が大勢いる都市部に比べると、光が当たる舞台に立つまでに時間がかからないし、早く世に出られるのではないでしょうか。

━━ 地方だからこそチャンスが多いというのは、一見すると意外な気もします。

永山さん:近年は地方の中で若手が結果を出していますが、それはプレイヤーが圧倒的に少ないから。発信を通じてローカルtoローカルで情報が循環するインフラができてきたので、前述のようなローカルの強みが共有されてくると、都市部から地方へと人口が逆流入する未来が本当にやってくるかもしれないとも思いますね。

産業力、地域の持続性にも不可欠なデジタル教育

━━ 日置市ではメタバースを活用した街づくり「ネオ日置」など、デジタル技術の採用にも積極的に取り組まれています。、地域へのデジタルの普及や教育についてはどのようにお考えですか?

永山さん:デジタルツールが拡張されていくことでアクセスできる人が増えると、おそらくは今後、意見や合意形成のあり方も変わるでしょう。そもそも、デジタルツールが当たり前に実装され、且つ、若い世代と高齢世代のギャップを埋めていく施策を考えなければ、今後自治会等の地域コミュニティは維持できないと考えています。

メタバースなど地域へのデジタル普及にも積極的に取り組む同市

━━ デジタルの浸透は地方の産業にどのような影響をもたらすのでしょうか。

永山さん:日置市の大きな産業は食品製造業で、従業員数でみると建築土木関係と医療福祉系が多いです。どの業種も、もうDXは避けて通れないし、DXで労働時間を削り従業員一人ひとりの生産性を高めていかなければならない。DXをやれば勝ち残れるとわかっていても、それをやる体力と余裕がない企業もあるかもしれません。日置市の産業力を上げるには、これらの業種がDXに取り組むことは必須です。

持続可能なリスキリングモデルの構築に向けて準備中。学びのワクワクはエンタメに通ずる

━━ まさにそこを解決するのが新しいリスキリングモデルになるかもしれません。学びにどんなことを期待しますか?

永山さん:学びには純粋にエンタメの側面があります。学びによって、昨日知らなかったことを今日知れる。今日できなかったことが明日できるようになるかもしれない。このワクワクはまさにエンタメと言えるでしょう。今回の取り組みも非常に楽しみです。

私が市長になることにつながる最初のチャレンジは、鹿児島での読書会でした。知的好奇心は学びの入り口であって、人とつながるときの強いフックにもなります。

一方コミュニティの観点では、自治会は縦割りでつながる「地縁型コミュニティ」で、学びのコミュニティは個人の趣味嗜好でつながる「テーマ型コミュニティ」。新たなリスキリングモデルを通じて学びのコミュニティが生まれ、フラットな横のつながりが充実してくると思います。そこで、これまで情報が共有されなかった縦割りの地縁型コミュニティに横串が通され、プラスの波及効果が生まれるでしょう。この縦横の掛け算によって、その地域の持続可能性が高まることを期待しています。

知的好奇心がYouTubeや動画などメディアに向いた場合は、ただ時間を“消費”するだけになってしまうこともありますが、コミュニティの中で学びが消化されていくと、それは消費というより「投資」になります。だから、学びのコミュニティが地域の中で育っていくのは非常にワクワクしますし、良質なエンタメになり得るコンテンツだと思います。

行政も民間も個人も、対話と挑戦がめぐるまちを目指して

━━ 永山さんが、官民連携でまちづくりを進めるのはなぜですか?

永山さん:もう行政だけでは支えきれないからです。地方都市では、困りごとは行政に言えばやってくれるというある種の行政信仰が強かったために、本来なら民間のビジネスチャンスであったり市民活動で楽しみながらやれるようなことも行政がやってきてしまったという反省があります。もちろん行政が「みんなでやりましょう」と言い続けることも大事ですが、自社の利益追求を優先しない、パブリックなマインドをもった組織もすでに生まれてきています。

━━ スクーのようなスタートアップに対して、どのような期待感をもっていますか?

永山さん:スタートアップは挑戦を続けることこそが存在意義です。ぜひ挑戦の風をこのまちにも吹き込んでほしいと思っています。

ただ挑戦には失敗のリスクもあるので、税金である一般財源を当てるのは難しい。その財源確保に私たち行政側が戦略的に取り組みながら、スタートアップの皆さんには、資金繰りは厳しいけれど一緒にやりたいんだという思いを伝え続けているところです。

━━ 最後に、市長が考える理想の日置市の姿や、これからの目標を教えてください。

永山さん:私のキーコピーは「対話と挑戦」。対話を通してしか挑戦は見つからないし、挑戦したことのある人は誰かの挑戦を前向きに応援してくれると思っています。小さな子どもから年配の方まで、いろんな世代が対話を通して、自分らしい挑戦に向き合えたり、自分らしく生き生きと暮らせるまちが理想です。

今後もきっと行政は目まぐるしく変化していきます。そうした変化に耐えられる体制をつくるには適切な「問い」が必要で、その問いに対して対話がずっとなされていて、今必要だと思う挑戦が、官民問わずどんどん生まれる。もちろん挑戦に失敗はつきものですが、失敗も寛容に受け止めて次の挑戦につなげていける、そんな豊かな生態系を日置市に構築していきたいです。


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