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「学び」の奈良県モデルを全国に、世界に━━奈良県庁がいま、全庁で人材育成に力を入れる理由とは

奈良県庁は2023年4月より、オリジナルの「学びのプラットフォーム『ならっCiao!』」の運用をスタートしました。職員が利用できるオンライン上の学習システムで、庁内での研修をはじめ外部の先進事例や知見が学べる動画等も視聴できます。そのコンテンツの一つとして提供されているのがオンライン学習サービス「Schoo」です。業務の合間や移動時間などの短い時間にも効率よく個人の学びを推進し、今ビジネスパーソンとして学ぶ必要があるスキルを外部コンテンツを取り入れながら学習することで、新たな人材育成に取り組まれています。

なぜいま、県庁として職員の「学び」に力を入れているのでしょうか。

奈良県庁で人事改革を実施し、「ならっCiao!」立ち上げを指揮した副知事・湯山壮一郎さんと、株式会社Schoo(以下、スクー)の代表取締役社長・森 健志郎が対談しました。

日本が、そして地方が抱える課題や働き方における「学び」の重要性とは?

忙しさが余裕を奪い、笑顔や挑戦を阻害する

━━湯山さんは奈良県庁に入って以降、人事改革に尽力されてきました。県庁内でどのような課題や危機感を感じた結果、この改革を推進しようと考えられたのでしょうか。

湯山壮一郎さん(以下、湯山私は2年ほど前に財務省から奈良県庁にきました。ここで仕事をして最初に感じたのは、「職員が忙しすぎる」こと。職員たちは極めて多様な業務に対応していて、しかも求める完成度が非常に高いんです。

私も長い間、国家公務員として仕事してきましたし、海外の大使館などさまざまな公務の現場で仕事をしてきましたが、地方自治体の仕事は特筆すべき忙しさでした。忙しいがゆえに職員たちは、組織の外の人たちと交流したり、日本社会や世界の変化を捉えながら仕事に取り組む余裕がありません。

でも、医療も福祉も企業の支援策も、解決すべき課題は全部県庁の外にあるんです。外で起こっていることに対して足を運んで話を聞いて、共感しながら仕事をしていかないと、課題設定自体がナンセンスなものになってしまいます。

━━忙しさの原因は、やはり人手不足でしょうか?

湯山:ほかにも要因はありますが、いま地域社会は圧倒的な人手不足です。だからといって、それによって余裕のない日々を送るだけでは、成長できなくなってしまいます。県庁は職員を成長させられる組織である必要があると思うし、そのための取り組みを行う必要があります。

同時に、健康寿命の延伸により現役時代も長くなりました。公務員は定年が年齢で決められていますが、定年退職後も見据えたキャリア形成・人生設計が個々人において必要になってきます。

つまり、現役時代に学びやリスキリングで自ら専門性を高めていき、退職後にその専門性を生かして自らキャリアを切り開いていくということが、これからは不可避なのです。もちろん本人の努力は欠かせませんが、それを可能とするような環境を、組織として提供する必要があると思っています。

━━そういった課題へ取り組むために、リスキリングや学びが必要なのですね。学びのプラットフォーム「ならっCiao!」をつくるにあたり、どのような点にこだわりましたか?

湯山:ポイントは3つあります。まず、対面の良い部分を残しつつ、オンライン上で効率的に学習ができるプラットフォームを提供する、という部分です。

はっきり言って、財務省時代の私は研修が嫌いでした。当時の私にとって、研修はチャレンジしている業務を阻害する要因でしかなかった。奈良県庁の従来の研修では、受講する側も教える側も車で県庁から15〜20分移動して研修場所に行きます。リアルで同じ経験をすることでコミュニティが生まれるなど対面研修の良さはありますが、もっと効率の良いやり方ができないだろうかと考えていました。

そして、会計や財務、法律、コンプライアンスなど公務員としてマストの部分だけでなく、外部の幅広い知識が学べたり、専門性を伸ばせるコンテンツの提供にもこだわりました。奈良県に限らずほかの自治体や国であっても、地域や日本社会を良くしていくためには、職員は外側で起きている社会や地域、世界の変化を取り込んで自分の仕事に反映していく必要があるからです。

一方で、進め方は現在検討中ですが、リスキリングの先に何があるのかを示すことで、効果的な学習につなげていく仕組みが必要です。学びが職場での処遇や人事にどう反映するのか、そもそもどういう能力が求められているのか。ここを明確にしないと、闇雲に学びを勧めても職員は向かうべき方向がわかりません。

つまり、「求められる能力の明確化」と「人事との連動」が、学ぶ組織をつくる上で大事なポイントだと考えています。

「楽しくやる」が極めて重要なキーワード

森:湯山さんのお考えに、とても共感しました。実は私も昔は研修が嫌いでした(笑) 自分自身が前職で受けたオンライン研修に違和感を感じ、もっと学びは楽しくできるはずだと思ったところから、スクーの創業に繋がっているんです。

今回新たに始められた「ならっCiao!」って、ネーミングから楽しくあろうとしていますよね。学ぶことは楽しい未来をつくること、プロセス自体も楽しいんだよ、というメッセージを感じました。

湯山:まさに、「楽しくやる」ということが極めて重要なキーワードなんです。「ならっCiao!」は、動画のジャンルを大きく「まじめに学ぶ」と「楽しく学ぶ」にカテゴリー分けをしていて、「楽しい」もしっかり確保しています。県庁職員に限らず公務員、あるいは日本の組織全体も、もう少し楽しく仕事する、笑顔を持ちながら仕事をしたほうがいいと私は感じているんですよ。

庁内を見ていると、量の多い仕事を完璧にこなすこと、ミスを犯さないことのプライオリティが極めて高い。チャレンジやトライ、新しい発想を取り入れる隙間すらないような職場文化が形成されてしまっています。

職場の環境が楽しいという以上に、「楽しく話をする」「新しいことに挑戦する」「何か試しにやってみる」ということを許容していけるようにしないと、世の中の変化から取り残されると思うんです。

森:そうですね。「楽しく働く」ってすごく複雑で、いろんな要素を満たさないとできません。人間関係、仕事の意義や社会的なベクトルだけじゃなくて、自分自身のスキルアップや成長効能が得られるだとか、総合的にすべて満たしてこそ、人はその組織や仕事を楽しいと感じるんだと思います。

学びの環境をただつくるだけじゃなく、そういう組織自体をつくっていくんだという思いがトップの方々から発信されてるのは、本当にすばらしいですね。

湯山:今後は、同じ動画を視聴した仲間同士でコミュニティ形成ができる仕組みも考えていきたいと思っています。できればもっと自発的な行動を期待していて、利用者である職員側がプラットフォームに動画をアップするとか、そういう動きが活発化していってもおもしろいですよね。

森:おもしろい!若い世代は、そういうものこそコミュニティだと思う傾向にありますしね。

「学び」って、教えるとか、自分が得てきたものを整理して伝えるというプロセスが、一番学習効果が高まるんです。学びのコミュニティの最終的な形態は、みんなが教わる側であり、みんなが教える側になること。これができれば、真に強い学びのコミュニティになると思います。

奈良県を全国のロールモデルに、リスキリングの環境整備を

━━奈良県が抱える課題には、地域の共通課題と言える部分もあると思います。スクーはこれまでに約40と多くの地方自治体と連携していますが、この活動をほかの地域と共有していけるとすれば、どんな効果が期待できるでしょうか?

森:今回うかがった中で一番通底する部分は「人がいなくなる、人手が足りなくなる」というところ。これは地域に限らず日本全体の問題で、人口減少・働き手不足をどうしていくかという課題のキーワードは「リスキリングや学び直しの環境整備」だと思うんですね。

それに対していろんな自治体、地域の方々が悩んでいるところで、先陣切って取り組まれているのが奈良県庁さんです。大きな話にはなりますが、奈良県庁の取り組みがうまくいくかどうかが、今後日本の地域の学び方、人口減少社会に対する対策をつくれるかどうかの大事なポイントになってくると思いますね。

湯山:それは頑張らないといけませんね(笑)

━━そもそも湯山さんが「学び」に着目した、原体験のようなきっかけはあるんでしょうか?

湯山:コロナ禍にあった頃、私は財務省にいました。6割が在宅勤務に切り替わり、しばらくしたら若い職員が「家でやることがない」というので、思い切って在宅中にハーバード大学のオンライン学習を受講もしてよい、という制度をつくったのです。頑張ってコース修了すれば認定資格がもらえてキャリア形成にもつながるとあって、好評でした。それが、「ならっCiao!」立ち上げにつながるひとつの原体験になっている気がします。

森:「Schoo」でもコロナ禍で在宅勤務の方が増えたことで、会員数、利用時間共にすごく伸びました。通勤時間がなくなり時間ができた方々が、その一部を学習時間にあてるようになっていったと考えられます。

我々自身、コロナ禍で失ったものもあるけれど、得た気づきもたくさんあって。それがアフターコロナにちゃんと継承されていることがすばらしいですね。

━━人口減少、働き手不足への解決策として、これからどんな「学び」の施策が求められるでしょうか。

湯山:私が民間企業を訪問するなかで、リスキリング活用を前提とした採用方針への転換が始まっていると感じます。

いままでは採用時に高スペックな人材を採用し、現場と若干の研修を経て育成していました。けれど昨今の深刻な人手不足の状況で、スペックを落としてでも人材をとりあえず確保して、社内でリスキリングも絡めながらいかに一人前の人材として育てていくかに注力しています。

先進的な民間企業ではそういう動きがすでに始まっていて、この波は今後確実に公務の世界にもやってきます。採用してから組織で求める専門性や基礎的な素養をリスキリングで身に付けてもらうことで、公務の現場で活躍していただく仕組みに変わっていくでしょう。

森:東京に拠点を持つ大企業や中堅企業の一部はいま、5年先を見ながら従業員に教育投資を始めています。しかし資金的余力のない地域の中小企業には正直厳しくて、自治体や国が新しいリスキリングの方法や学び方を開発して展開していく必要がある。地域の中小企業や若者たちに学びの機会を開いていくことが、これから日本が10年スパンで行っていくべきことだと思っています。

奈良県庁が、コミュニティを形成しながら楽しく学ぶという成功モデルをつくって、地域の中小企業に広げていく。そういうところまで、僕は一緒にやらせていただきたいなと思っています。

湯山:ありがとうございます。そういうふうに、地域の企業でもリスキリングについて前向きに取り組んでいただけるきっかけになれたら非常にうれしいです。

「学び」を手段に、それぞれの幸せをつかもう

━━最後に、お二人が「ならっCiao!」や「Schoo」を通してこれから地域の学びをどのように促進していくのか、展望をお聞かせください。

湯山:リスキリングや学びを通じて、職員も含め地域の方々に幸せになってほしいなと思っています。幸せになるための個々人の目標は多様なので、それに向かって進んでいける状態でいることが重要です。

そのなかで、大きなひとつの課題は「きちっとした質の高い仕事を得られるかどうか」。実は奈良県は女性の就労率が全国で最下位クラスなんです。これからは、県内の才能豊かで経験豊富な女性たちがリスキリングして、仕事に就いていただく。ひとり親家庭など制約的な環境下にいる方もリスキリングで専門性をある程度確保して、フルテレワークで在宅で働き、就労時間も自分で選択できるような形で就労する機会を作っていく予定です。

実際にいま「デジタル女子」として、リスキリングと大手IT企業への外部委託をセットにした政策を進めています。こういった動きを強めていきたいですね。

森:我々は、「誰でも、いつでも、どこでも、何度でも挑戦できる社会」の実現を目指し、学びという一つの手段によって社会課題の解決に寄与していくことを目指しています。

多くの人にとって「学び」は「手段」です。学んだ結果として、もっと早く家に帰れるとか年収が上がるとか、何かを得られるまでお手伝いすることがすごく大切だと思っています。そうすることで、地域や社会全体が活気にあふれ、より良くなっていく。これが我々の会社や「学び」が生み出していく本当の価値だと思っています。

日本は経済成長期から停滞期になり、都市集中型で地方の人口は減り働き手が少なくなってきました。この現象は、今後東南アジアやインド、アフリカなど急成長している国が全部続いてそうなっていくでしょう。これから日本の地域で起こること、そしてその解決策が世界のスタンダードになっていく可能性がある。すごく面白いですよね。

そのなかで我々がやりたいことは結局、学ぶ人を増やすことではなく、学んだ結果として「幸せになる人を増やす」ことだと僕自身もすごく思っています。

学びを通じて、地域の課題を解決したり、地域にお住まいの方々のもっと明るい未来をつくっていけるように、徹底的に伴走したいと思っています。

湯山:ぜひ頑張りたいですね。


▼奈良県副知事 湯山壮一郎 氏
東京都出身、46歳。2002年に財務省に入り、主計局主査や理財局総務課の政策調整室長などを経て、一昨年7月から奈良県の総務部長を務める。2023年7月10日より奈良県副知事に就任。

▼株式会社Schoo 代表取締役社長 森 健志郎 氏
1986年大阪生まれ。2009年近畿大学経営学部卒業。2009年4月、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズで広告の企画制作に従事。2011年10月、24歳で当社を創業し代表取締役に就任。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。

 

■株式会社Schoo

 MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する


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