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半導体集積地として100年に一度のチャンスが到来した熊本県━━人材育成の現在地と地域発スタートアップへの期待とは?

スクーは2023年10月、熊本県に九州サテライトオフィス『KYUSYU Schoo SITE』を設置しました。

2024年春の台湾の半導体世界最大手・TSMCの熊本工場開所に向けて産業改革が進むだけなく、新たな人材育成・確保に向けた政策の拡充なども進むこの地域とSchoo(以下、スクー)がつながることで、どんな可能性が生まれていくのか。

熊本県商工労働部産業支援課長・辻井翔太さんとスクー代表取締役・森健志郎が、それぞれの視点から意見を交わしました。


盛り上がる半導体産業。人材の流動化をどう促進するか

━━ 熊本県は2020年に新しい産業成長ビジョンを策定され、優れた人材や技術のX(クロス)により新たな価値創造を掲げられています。今、熊本県の産業はどう変化してきているのでしょうか。

辻井翔太さん(以下、辻井):熊本県は産業においては製造業の占める割合が従来より大きく、自動車部品関連と半導体関連の2つが特に大きいです。特に半導体に関しては台湾のTSMC(半導体受託製造世界最大手の台湾企業)の誘致に成功し、関連する企業の集積も始まり、全国的にも注目を頂いています。この2分野を中心に、県の経済の一層の成長が期待されています。

一方でこの10年間で、熊本県においても様々なスタートアップ企業も誕生し、成長しています。例えば取り組みの一つとして、8年前から「熊本県次世代ベンチャー創出支援コンソーシアム」を立ち上げています。これは大学や地元の工業関係団体、地域金融機関、県外支援機関が、産官学金で一体となりベンチャー支援を行うものです。実際に十数社の起業がありました。

こうした新しい動きを促進するコミュニティも様々なところで生まれてきており、首都圏と比べるとまだまだ小さいですが、やっと熊本にもいわゆる「スタートアップエコシステム」が芽生えてきたと感じています。

━━ その中で「人材と技術のクロス」を掲げる背景には、どのような課題があるのでしょうか?

辻井:今、半導体関連企業がライフサイエンスの分野に進出したり、大手企業がオープンイノベーションに取り組み始めたりと、様々な「クロス」が日本中で起こり始めています。またこうしたオープンイノベーションを実現するためには、例えば、転職してキャリアアップしていくといった労働市場が当たり前にある、「人材の流動化」も活性化させていかなければなりません。

ご存じの通り、次年度には半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本工場を開所します。これを起点とした半導体関連産業について、県民の注目度が非常に高いことを感じます。例えば半導体企業の給与は非常に高く、ついこの間までサービス業で働いていた人が突然転職する、というような現象も起きています。作業のマニュアル化等により理系文系関係なく働ける、という点も大きいのだと思います。

森健志郎(以下、):社会的なリスキリングが熊本で起きている状態なんですね。リスキリングの障壁は「学ぶモチベーションの維持」になることが多いのですが、熊本の場合、「給料が上がる」という直接的な便益が強まっているのが大きい。

辻井:今、熊本では毎日のように半導体関連のニュースが流れています。その影響か、大学でも半導体の授業に文系の生徒が顔を出していたり、クリーンルーム視察が満員御礼だったり。「半導体って凄そう」という、大きなムーブメントが県全体に起こっている印象です。

:熊本県をひとつの企業と捉えると、半導体企業を外部から誘致してコアの産業として磨きつつ、スタートアップ創出支援も進めていく、という事業戦略が見えてきた状況なんですね。

人材確保の軸は「育成強化」と「環境整備」 

━━ 今世界中から注目される半導体産業ですが、継続的な人材確保については、どのように取り組まれていくのでしょうか。

辻井:そこが非常に悩ましく、一番の課題は人材育成です。対策のひとつとして、まずはしっかり「県内で育てる」ことが重要だと思っています。熊本県ではTSMCの誘致決定後、産官学の関係者が一体になって人材育成に取り組んでいます。「学」では熊本大学が先行し、大学での人材育成を強化するために動き、半導体に特化した学科の設置や専門教員も数倍に増やしました。

また、熊本には高等専門学校(以下、高専)のキャンパスが2つあって、半導体強化校にも選ばれています。高専の人材は企業からも人気が高く、今後重要性がさらに増してくると思います。

それでも、県内の人口そのものが減少傾向にあるため、「県外からの人材確保」も必要です。東京・大阪・福岡に熊本へのUIJターン窓口を設け、これを強化しています。UIJターンには、仕事だけではなくインフラや教育環境等の生活環境の整備も重要だと考えています。県としても渋滞緩和に向けた道路の整備やインターナショナルスクールの設置支援の検討など、総合的に政策を進めているところです。

:熊本にTSMCがくる理由のひとつには「水」もあるのではないでしょうか。半導体製造には大量の水が必要だし、水がいい地域は結局酒も料理もおいしい。熊本は「水」をどうやってまちづくりやPRに活かすかが今後の肝かもしれませんね。

辻井:おっしゃる通りですね。熊本はよく、「自給自足できるまち」と言われていて、水もおいしければ、それによって育つ農産物もおいしい。「火の国」というのが有名ですが、「水の国」というのも、もっと県外の方に浸透してもいいと思ってます。

半導体の“周辺”産業をどう盛り上げるか?

━━ そうしたなかで、この10年で出てきたというスタートアップについては、どのような状況でしょうか?

辻井:熊本を代表するスタートアップだとDAIZという、成長著しい植物肉のスタートアップもあったりしますが、地方ではこれらのスタートアップを生み出すだけでなく、どうやって大きくしていくかが、大きな課題だと思っています。

:熊本の産業はその魅力である「水」を軸にして、スタートアップも水や地域資源を使ったイノベーションを模索すれば東京のスタートアップよりも魅力的なものを生み出せますし、「水」という資源をさらに守っていくのではないかと思います。地域のスタートアップは、その地域ならではの特性を活かしたものや、その特性を守っていくためのものという、自分ごと化できるものでないとなかなか推進が難しいですよね。

:個人的には、地方ではできるだけその地方の地域資源に起因するようなスタートアップが生まれていくといいなと考えています。TSMCの進出により工業都市として熊本の環境が高度化したことが魅力になって企業が来たとしても、やっぱり熊本が本来持っているは自然や水といった魅力に共感が無ければ、いずれ限界がくると思うんです。

:世界の投資家たちの動きを見ても、今後のスタートアップやイノベーションのテーマは森や海をはじめとする自然や環境資源に類するものが増えていくと考えられます。熊本のように水源のある場所は、東京や福岡とは違った形でスタートアップの活躍の場を生み出せる可能性がありますよね。

:他県の事例でも、地域の農家とスタートアップが手を組み、収穫ロボットによる食糧問題解決に挑んでたりしますよね。

私たちは今後、半導体を「作る」だけではなく、半導体を「使う」側の産業をつくっていけないかと思っています。半導体を使った最新のテクノロジーがあるからこそ、自然や環境を守りながら人々が快適に暮らせる。そんな新しい価値観を熊本でうまく循環させたいですね。熊本をものづくりの場で終わらせてはいけない、と思い始めています。

:新たなプレイヤーの登場が待ち望まれますね。そのなかで私たちに貢献できることがあるとすれば、学生向けにスタートアップの魅力を伝えていくことかもしれません。次の時代を担う若者たちの起業家マインドの育成にも、協力していけたらいいなと思います。

地域と挑戦するスタートアップのロールモデルに

━━ 2023年10月、スクーは初となる九州のサテライトオフィスを熊本県熊本市にかまえました。九州に新たな拠点を置いて、森社長には今、どのような景色が見えていますか。

:九州の各地域のみなさんと対話を重ねていくなかで、みなさんの目指したい方向が少しずつ見えてきました。目指すものを叶えるひとつの手段である「学び」を、質の高いより良いものにしていくお手伝いができればと思っています。

ただ、私たちは決して、既存の教育サービスを売るために九州にきたわけではありません。私たちのような東京のスタートアップが地域に入って一体何ができるのか?それを探すために、今、九州のみなさんとじっくり対話させていただいているところです。

教育だけではなく、我々がやったことのないことも含めて、熊本をはじめ、九州のみなさんと一緒に挑戦したい。地域と手を取り合い、挑戦するスタートアップのロールモデルを目指したいと思っています。

辻井:ありがたいですね。もっともっとスクーさんをはじめ県外の方々とも対話を重ねながら、我々や地域の人たちが気付いていない課題を一緒に見つけていただきたいです。

:熊本は、産業があって、土地や水といった資源もある。過疎地でもなければ、完成された都市でもない熊本は、これから何にでも挑戦できる土壌があります。今後若手のプレイヤーが何人か頭角を現してくると、スタートアップも一気に伸びてくるでしょう。

そこで大事なのは、その人たちに関わる周りの大人たち、先輩たちだと思うんです。最先端のことをちゃんと学んで、彼らをサポートしながら、邪魔をしないこと。見守りつつ応援してあげられる文化の醸成は、社会人教育や大学のデジタルトランスフォーメーションといった表面的なことよりも、はるかに重要です。若い革命家を熊本で見出して、みなさんの思いを背負った次世代のスターをつくっていけるような土壌を耕すことが、我々のもうひとつの役割なのかなと思い始めているところです。

辻井:今の若者は、彼らにしか見えていないものがありますよね。いろんな働き方や暮らし方、学び方といった従来と異なるライフスタイルも生まれているなかで、それに影響されてか、周りの大人たちも10年前とはまったく違った柔軟な思考になりつつあります。

東京の第一線で活躍されているスクーさんが我々の近くに来てくれたことは大きなチャンスだと思っています。一緒に熊本に新しい風を吹かせていけたら嬉しいです。

:これからぜひ、もっと顔をつき合わせて対話を続けていきましょう。


▼熊本県庁 商工労働部 産業支援課長 辻井翔太氏
2012年京都大学大学院(土木)を卒業後、経済産業省に入省。 入省後は中小企業振興、福島復興、素材産業や再生可能エネルギー関連政策に携わったのち、新卒・キャリア採用を担当。 2021年より熊本県庁へ出向し、地場中小企業支援や半導体戦略のとりまとめ、新産業創出などに取り組んでいる。

▼Schoo 代表取締役 森 健志郎氏
1986年大阪生まれ。2009年近畿大学経営学部卒業。2009年4月、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズで広告の企画制作に従事。2011年10月、24歳で当社を創業し代表取締役に就任。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。


■株式会社Schoo

MISSION:世の中から卒業をなくす
VISION:インターネット学習で人類を変革する

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